泉 麻人【東京深聞】 楽天地・錦糸町はスイーツ天国 『カフェマウンテン』(墨田区・錦糸町) ~ぐるり東京 町喫茶さんぽ~

2022年4月8日 09時30分
 

「泉麻人 絶対責任編集  東京深聞とうきょうしんぶん」がリニューアル!泉麻人さんとイラストレーターのなかむらるみさんが、東京の喫茶店をめぐる街さんぽエッセイ。さんぽ途中で町の喫茶店を訪れ、店の生い立ちなどをマスターに深く聞きます。今までの「東京近郊気まぐれ電鉄」もバックナンバーとしてお読みいただけます。

楽天地・錦糸町はスイーツ天国 『カフェマウンテン』

 近頃「町中華」というのがちょっとしたハヤリになっているけれど、ここでは町なかの素朴な喫茶店を「町喫茶」と銘打って案内していこうと思う。1回目としてやってきた町は錦糸町。総武線のホームに降り立つと、北口の錦糸公園の向こうに東京スカイツリーがすっくとそびえている。
 まずは南口の方から歩いてみよう。駅の南東側、四ツ目通りと京葉道路の交差点角の楽天地ビルは東宝の映画館や天然温泉の浴場が収容された錦糸町のシンボル的なスポットだが、ここはそもそもあの大プロデューサー・小林一三いちぞうが戦前(昭和12年)に開発した歓楽地(当初は噴水や遊具を備えた劇場街だった)から始まったのだ。
 その南方の錦糸堀公園のまわりには「花壇街」という奇妙な名前の飲食街があるけれど、もとはアプローチに花壇が設けられていたと聞く。この花壇街の一帯には東南アジア系の店が目につくが、いわゆる“夜の店”が主体なので日中はさみしい。四ツ目通りのガードを潜って北口に行くと、ロッテシティホテルの裏方に昔ながらの駄菓子の工場がある。
 西島製菓というのは昭和30年代から棒型のきなこ飴を作っている所。さらにもう1本別の路地には鍵屋製菓というのがあって、僕の子供時代から小腹が減ったときによく買い食いした、“おふ菓子”を作っているのが窓ごしに見える。錦糸町は上野アメ横や日暮里と同じく、終戦後の駅前に菓子問屋街ができあがった町なのだ。西島製菓で1箱300円で小売しているきなこ飴(45本入り)をオトナ買いして、すぐ先の錦糸公園で味わうことにした。

1箱50本入りで300円。

 ところでこの飴、パッケージに「棒きなこ当」と大きく記されていて、一瞬「きなこ弁当」と読みたくもなるが、この当は当たりクジの意味があり、食べると当たりの棒(ようじ)は先っぽが赤くなっている(当たりは5本はあった)。
 錦糸公園は関東大震災の復興事業として、昭和3年に開園した歴史ある公園。ひと頃は北側に精工舎の古い工場が存在したが、いまはオリナスというショッピングモールの向こうにスカイツリーがよく見える。どことなく格好が似ている“棒きなこ”を比べ合わせるようにして食べた。

取材当日は、ぽかぽか陽気の春日和。

 さて、今回訪ねる喫茶店は錦糸公園の西側ブロック、駅から近い北斎通りに面して立つ「カフェ マウンテン」。2階建の四角い建物に<Coffee Mountain>と記したシックな緑の幌看板が掲げられている。ちなみに北斎通りとは、この先の「すみだ北斎美術館」(以前のバス遊覧の連載で訪ねた)から付けられた最近の名称だ。
 2階のテーブル席につくと、窓が広々として眺望がとてもいい。どことなく、かつて新宿の紀伊國屋裏にあったニュートップスの雰囲気に似ている。メニューはいろいろとあるが、昼食はすでに済ませた3時近くだったので、スイーツ系の「いちごのフルーツサンド」とコーヒーを注文した。フルーツのサンドウィッチを看板にしたカフェは最近よく見掛けるけれど、クリームが大味でガッカリくることが少なくない。しかしここの“いちごのサンド”は上質のショートケーキの具をそのまんまパンで挟みました…といった感じで、とてもおいしかった。

看板メニューであるフルーツサンドセット(1,400円)

 こういうイマ風のメニューは現在の女性店主の考案らしいが、店を始めた彼女のオヤジさんも健在で、創業のお話を伺った。往年の喜劇役者のような飄々とした味のある方なのだが、もう90手前だという。まず、「マウンテン」という店名、壁に尾瀬沼あたりからの山景色の絵画が飾られていたので、「あー、山好きなんですね。それでマウンテン?」と確認するように伺ったら、「いや、私の名前が山下なもんで…」と、かわされた。
 そんな山下さんのマウンテン、ここで開店したのは昭和41年(1966年)というから、もう半世紀以上前だ。年季の入った建物だが、もとから喫茶店だったというわけではない。
 「カステラなんかを作る菓子屋の工場だったんですよ」
 この回答は予想していなかったが、菓子問屋の町の歴史とつながった。錦糸町は知られざるスイーツの町なのである。
★次回は4月15日(金)です。お楽しみに。

今回訪れた喫茶店

カフェマウンテン
住所 東京都墨田区錦糸2-3-8
営業時間 7:00~19:00
定休日 なし
※新型コロナウィルスの影響で、掲載したお店や施設の臨時休業および、営業時間などが変更になる場合がございます。事前にご確認ください。

PROFILE

◇泉麻人(コラムニスト)
1956年東京生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、編集者を経てコラムニストとして活動。東京に関する著作を多く著わす。近著に『黄金の1980年代コラム』(三賢社)『夏の迷い子』(中央公論新社)、『大東京23区散歩』(講談社)、『東京 いつもの喫茶店』(平凡社)、『1964 前の東京オリンピックのころを回想してみた。』(三賢社)、『冗談音楽の怪人・三木鶏郎』(新潮新書)、『東京いつもの喫茶店』(平凡社)、『大東京のらりくらりバス遊覧』(東京新聞)などがある。『大東京のらりくらりバス遊覧』の続編単行本が2021年2月下旬、東京新聞より発売された。
◇なかむらるみ(イラストレーター)
1980年東京都新宿区生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒。著書に『おじさん図鑑』(小学館)、『おじさん追跡日記』(文藝春秋)がある。
https://tsumamu.tumblr.com/

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