第三者の精子、卵子使用の法制化案に当事者らから批判 「出自知る権利は」「法律上の夫婦以外も対象に」

2022年4月5日 06時00分
 第三者の精子や卵子を使う生殖補助医療のルールの法制化に向け、超党派の議員連盟がまとめた法案のたたき台を巡り、生まれる子の権利やLGBTQ(性的少数者)の視点が欠けていると当事者らが批判し、見直しを求める声が上がっている。(小嶋麻友美、奥野斐)

◆開示内容を提供者の意思に委ねる骨子案

 議連の骨子案では、提供精子や卵子を使う治療の対象を法律上の夫婦に限定し、独立行政法人が提供者や夫婦、生まれた子の名前やマイナンバーなどを100年間保存。成人した子どもは提供者の情報を独法に請求できるが、開示内容は提供者の意思に委ねるとした。今国会への法案提出を目指し、各党で検討している。
 提供精子で生まれた当事者らの「非配偶者間人工授精で生まれた人の自助グループ」は、「この法案では『出自を知る権利』が認められたとは言えない」とする意見書を各党議員らに渡し、修正を求めている。
 開示される情報について「選択権は子どもの側にあるべきだ」と主張。メンバーの石塚幸子さんは「100年保存しても提供者が死亡すれば開示されない。誰が得をする法案か分からない」と批判した。

◆子どもたちが「違法な状態で生まれた子」になる

 法律上の夫婦を対象とすることに、子どもを育てるLGBTQカップルらを支援する一般社団法人「こどまっぷ」(東京)の共同代表の長村さと子さん(38)は「子どもを持ちたいと願う女性カップルは多い。病院で治療を受けることを法律で禁じられれば、本来取り締まるべき一部の悪質なインターネット上の個人間の精子提供がさらに拡大する可能性がある」と懸念。「安全で適切な医療を受けられない女性も増える」と話す。
 こどまっぷは3月、日本産科婦人科学会に意見書を提出し、議員にも働き掛ける予定。長村さん自身、知人から精子提供を受けて昨年12月に出産し、女性パートナーと育てている。「日本にもすでに多様な家族が存在する。この法案では子どもたちが『違法な状態で生まれた子』になってしまう」と指摘した。
   ◇   ◇

◆「現実の問題に向き合っていない」明治学院大・柘植教授(生命倫理)

 議連の法案骨子について、生命倫理が専門の柘植つげあづみ・明治学院大教授に聞いた。(小嶋麻友美)

柘植あづみ明治学院大教授

 -法案は子の「出自を知る権利」を保障するため、当事者の個人情報を独立行政法人が管理するとした。
 すべての情報を提供者に確認し、了承がなければ開示されない仕組みは、子の気持ちを無視している。提供者の病気などの医学的情報は、生まれた子の生存に重要だ。提供時の考えや趣味など「人」として知りたい思いもある。個人を特定しない情報なら了承なしで開示するなど、二段構えにするべきではないか。提供者にも、提供によって子どもが生まれたかなど、希望があれば限定的な情報開示は検討すべきだと思う。
 情報を開示する機関をつくるだけでは不十分だ。子どもと提供者の間で連絡や調整をするコーディネーター、カウンセラーなどの人材も必要になる。
 -法律婚に限定したことに批判もある。
 医療機関で提供を受けられないLGBTQやシングル女性は、個人間の取引を選ぶだろう。すると情報管理の枠の外になり、子の「出自を知る権利」が保障されない可能性が高い。この案は、すでに起きている問題に向き合っているとは言えない。
 -さまざまな法制度が法律婚を基本としており、生殖医療だけ異なる制度にはできないと議連は説明している。
 生殖医療は不妊の人に限らず、誰もが子どもを持てる可能性をもたらす。つまり家族のかたちを変える性質を持つ。この技術を進めるのであれば、家族のかたちの変化を見越した制度を準備すべきではないか。

つげ・あづみ お茶の水女子大で博士取得。明治学院大学社会学部長を経て、2021年から副学長。近著に「生殖技術と親になること 不妊治療と出生前検査がもたらす葛藤」(みすず書房)。

関連キーワード


おすすめ情報