原発への武力攻撃で格納容器破損したら…東海第二周辺で37万人死亡 環境経済研・上岡所長が試算

2022年4月5日 07時26分

海側から見た東海第二原発。30キロ圏内の人口は国内の原発で最多の約94万人=東海村で、本社ヘリ「おおづる」から

 日本原子力発電東海第二原発(東海村)が武力攻撃を受けて原子炉格納容器が破損し、炉心の放射性物質が外部に放出された場合、県内などで約三十七万人の死者が出るとの試算を、環境経済研究所(東京都千代田区)所長の上岡かみおか直見・法政大非常勤講師が公表した。首都圏の広範囲で人が住めなくなる恐れも、併せて指摘している。(宮尾幹成)

◆立ち入り禁止

 試算は、ロシア軍がウクライナでチェルノブイリなど複数の原発を攻撃した事態を踏まえ、東海第二や東京電力柏崎刈羽原発(新潟県柏崎市、刈羽村)6号機など国内の原発六基について実施。柏崎刈羽は、東電が現実的に再稼働を目指している6、7号機のうち6号機を取り上げた。

東海第二原発の格納容器破損のシミュレーション。1個で死者100人を示す□は、実際には無数に重なり合っている。「避難権利」はチェルノブイリ基準による区分で、国が避難者に対し補償や医療支援などの責任を負う

 上岡氏は、戦車などの砲弾や携行兵器が原子炉建屋、格納容器、圧力容器を一挙に貫通して炉心に到達することは考えにくいとして、原子炉停止時に炉心の熱を冷ます機器が破壊され、大量に発生した水蒸気の圧力で格納容器が壊れるシナリオを想定。その後に起きる炉心溶融でヨウ素やセシウムなどの核分裂生成物が大気中に放出、東京方面に吹く風で拡散するケースをシミュレーションした。
 拡散状況の計算は、原子力委員会が策定した原発の安全解析のための気象指針に準拠した。おおよその目安を知る簡易的なモデルのため、横方向への拡散や地形の影響は無視している。
 その結果を、一九八六年のチェルノブイリ原発事故後にウクライナで定められた放射能汚染地域の区分(チェルノブイリ基準)に当てはめたところ、東海第二では茨城、埼玉両県と東京都の広い範囲が立ち入り禁止となり、強制移住(一平方メートル当たり一四八万ベクレル以上の土壌汚染など)の対象は関東一円に及んだ。
 柏崎刈羽でも、群馬県の広範囲が立ち入り禁止区域に、東京都や埼玉、神奈川両県の大部分が強制移住区域に含まれている。

柏崎刈羽原発6号機の格納容器破損のシミュレーション。東海第二原発に比べて南側の人口密度が低いため、推計死者数は比較的少ない(地図はいずれも上岡直見氏作成)

 また、全住民の避難に二週間かかると仮定し、被ばくによる人体への確率的影響を評価。二シーベルト(二〇〇〇ミリシーベルト)の被ばくで致死率2・3%、一シーベルトで0・1%などの推定を基に死者数を計算すると、原発周辺を中心に東海第二で約三十七万人、柏崎刈羽では約五万九千人となった。このほか、死亡に至らない健康被害も起きる。

◆試算の数倍も

 ただ、原発の重大事故に備えて自治体が策定する広域避難計画の対象となっている三十キロ圏内だけでも、東海第二周辺には約九十四万人、柏崎刈羽周辺には約四十五万人が暮らす。実際の避難にはもっと時間がかかり、死者数も積み上がる可能性が高い。
 その上、原発では原子炉本体よりも、原子炉建屋内にある使用済み核燃料プールの方が構造的にはるかに武力攻撃には弱いと考えられるが、プールが破壊された場合の影響を正確に推計できる資料が乏しいとして、今回の試算では検討していない。
 上岡氏は「格納容器の破損でもかなり深刻な事象だが、最悪の想定ではない。プールの破壊ではさらに大量の放射性物質が放出され、試算の数倍の死者が発生しうる」と懸念。「ウクライナ危機で原発の大きなリスクがあらためて浮き彫りになった」として、早期の廃炉や核物質撤去を訴える。
 上岡氏の試算について、原電は本紙の取材に「当社が公表した内容ではなく、回答する立場にない」とコメントした。
 東電は試算の内容には触れず、武力攻撃リスクに関して「わが国の外交、防衛上の観点から対処されること」との認識を示した上で、原発のさまざまな事故対策設備を列挙。「炉心損傷や大規模な放射性物質の放出につながる事態を最大限回避できるものと考えている」などと答えた。
 試算の詳細についての問い合わせは上岡氏のメール(sustran-japan@nifty.ne.jp)へ。

上岡直見氏は、日本原子力研究開発機構の東海再処理施設(東海村、廃止措置中)への武力攻撃で保管中の高レベル放射性廃液の20%が外部に放出された場合、首都圏を中心に約40万人の死者が出るとの試算も公表済み。概要は3月18日付の茨城版記事で紹介している。

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