耳鳴り軽減へ脳を訓練 音響療法+補聴器 音の「感度」下げ意識の外に

2022年4月5日 08時44分
 周囲に音がないのに、さまざまな音が聞こえる耳鳴り。治療が必要な人は全国で三百万人近い。特効薬がない中、三カ月以上続く慢性の場合は近年、耳鳴りに順応するよう、脳を訓練する治療が一般的になっている。適切に施せば耳鳴りの苦痛は軽減するが、柱となる夜間の音響療法と補聴器の調整には注意点が多く、効果が上がっていない人も少なくない。 (植木創太)
 愛知県内で一人暮らしをする女性(81)は約一年前から、寝ようとすると「ジー」という音が聞こえ、なかなか眠れない。かかりつけ医で漢方薬を出されたが改善せず「ずっとこのまま続くのか」と不安がる。

◆65歳以上3割自覚

 日赤愛知医療センター名古屋第一病院耳鼻咽喉科部長の柘植勇人さん(59)によると、耳から入った音は、内耳の蝸牛(かぎゅう)で電気信号に変えられ、脳に伝わる。その際、脳は周囲の音の大きさに応じて感度を変え、聞きたい音を聞きやすくしている。
 しかし、加齢などで聴力が落ち、信号が脳に届かなくなると、脳は感度を常に上げた状態に。これが続くと、感度の調節がうまくいかなくなる。
 耳鳴りのない人も無音の無響室に入ると、何らかの音が聞こえることが多いという。静寂によって脳の感度が上がり、普段は潜んでいた音を自覚するからで、これが耳鳴りだ。日本聴覚医学会の「耳鳴診療ガイドライン」によると、六十五歳以上の三割は日常的に耳鳴りがあるという。ストレスによって聴覚が過敏になった際にも症状が現れる。
 患者が耳鳴りを「不快」と認識すると、脳はその音を「重要」と捉えて際立たせる。外敵から身を守ろうとする動物の防衛本能の一つと考えられ、さらに耳鳴りを意識するように。夜間の耳鳴りは不眠をもたらして心の余裕を奪う。

◆専門医の指導必要

 こうした悪循環から抜け出すのに有効として、診療ガイドラインでも紹介されているのが「耳鳴再訓練療法(TRT)」。十年以上取り組む柘植さんによると、「耳鳴りを苦痛と思わないよう、脳をつくりかえる治療」で、夜間の苦痛を軽減する音響療法と、昼間の耳鳴りを意識から外す補聴器を活用する。八〜九割の人は苦痛が軽くなるが、適切に施すには注意点が多い。
 夜間の音響療法では、音に包まれる環境をつくり、脳の感度を下げることが肝心。具体的には、周囲が静かで耳鳴りに注意が向きがちな中、低音から高音までを均一に含み、音量の変化が少ない川のせせらぎや滝の音などの環境音で周囲を満たす。
 夜中に目覚めた時や起床時の苦痛を軽減するため、音は一晩中流すのがポイント。音量は、耳鳴りは聞こえるが、苦痛に感じない程度だ。目を閉じると、音源の位置が分からない状態にするといい。足元にスピーカーを置いて壁に向け、音を反響させるのも一つの手だ。
 補聴器は日中も耳鳴りが気になる場合に有効。「この場合の補聴器の目的は難聴治療ではなく、耳鳴り治療。適切に調整すれば脳の感度が下がり、耳鳴りは気にならなくなる」と柘植さんは話す。調整は非常に繊細で、厳密さを必要とするため、専門の耳鼻咽喉科医による指導が不可欠だ。
 TRTを受けていても効果が上がらない人は、補聴器の調整が不十分である場合が多い。「あきらめずにセカンドオピニオンを受けてほしい」と呼び掛ける。

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