<ふくしまの10年・行ける所までとにかく行こう> (8)街が神隠しのように

2020年4月30日 02時00分

静まり返ったJR常磐線浪江駅周辺の商店街=福島県浪江町で(豊田直巳さん提供)

 写真家の豊田直巳さん(63)は二〇一一年三月二十八日から三回目の福島取材に入った。国道4号から飯舘村に入り、有識者らによる放射能汚染の調査を取材をした後、南相馬市を経て、東京電力福島第一原発の周辺を目指して南下した。現地の道路事情などは分からなかったが、「行けるところまで行こう」と車を走らせた。
 浪江町に入った辺りで、道をふさぐように立っている一匹の犬に出くわした。豊田さんは車を降り、食べ物を与えようとしたが、犬は警戒心をあらわにし、しきりにほえ続けた。自らかみ切ったのか、首輪からは切れた革ひもがぶら下がっていた。
 「さぞ空腹だったと思うが、飢餓感より人間不信が募っていたように感じた。かといって犬を置いていった飼い主は責められない。突然の原発事故で避難を迫られた住民は、時間的な猶予はなく、ペットを連れていくことも許されなかったのだから」
 少し進み、JR常磐線浪江駅の周辺に広がる商店街に着くと、静まり返った街が広がっていた。
 確かに屋根の重さで一階がつぶれたり、棚が倒れて商品が散乱したりした店も多かった。一軒の店先には、三月十二日付の地元紙の朝刊が、折り込みチラシをはさんだまま置かれていた。日に焼けた紙面には、「特別紙面 大地震M8・8」の大見出しが躍っていた。
 しかし、それらを除けばうららかな春の陽光が降り注ぎ、商店街の街路灯は整然と並んでいた。
 豊田さんは、本当に大震災に見舞われたのだろうか、と不思議な感覚を覚えたという。その半面、物音のしない様子は「この街にいた人たち全員が神隠しにでもあったように感じた」とも振り返った。

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