散乱する遺体、息子の目を覆い ウクライナ・ブチャ周辺からアメリカへ避難 「何が起きているか知って」

2022年4月5日 18時36分
 ロシア軍が多数の民間人を殺害したとみられるウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャ周辺から米国に避難した親子が取材に応じ、無差別攻撃にさらされた町を振り返った。「焼け焦げた遺体を見ないよう、息子の目を手で覆いながら逃げた」と母。命懸けの逃避行の経験から「現地で何が起きたのか知ってほしい」と訴える。(米ロサンゼルスで、杉藤貴浩)

3月29日、米西部ロサンゼルスで、ウクライナから息子のマーク君(中)と避難した日々を振り返るアンナさん(右)。マリナさんは米国からポーランドまで2人を迎えに行った=杉藤貴浩撮影

 米国に避難したのはアンナ・ビロノジュコさん(33)とマーク君(6)。300人以上の市民が犠牲となったブチャの隣町から逃れた後、15年前に渡米したアンナさんの幼なじみマリナ・ソコロフスカさん(35)とウクライナの隣国ポーランドで落ち合い、約3週間前に米ロサンゼルスに到着した。「少しほっとしているが、まだ先のことは考えられない」とアンナさん。
 ブチャ近くにいたのは偶然だった。2月24日のロシアの侵攻開始時、アンナさんとマーク君はキーウの集合住宅で2人暮らし。首都への空爆の恐怖から「どこか地下室があるところへ」と知人のつてでキーウ北西の空き家に身を隠した。

◆地下室で1週間 やまない爆発音

避難途中のアンナさん。栄養不足と心労でやつれた表情をしている=マリナさん提供

 しかし「避難初日の夜から爆発音が響き、毎晩、数が増えていった」とアンナさん。地下室でマーク君と毛布にくるまり「お母さん、なぜ震えているの」という問い掛けには「ただ寒いだけよ」と笑顔を作った。
 水も電気も通っていない地下室の生活が1週間に近づき、キーウの冷蔵庫から持ってきた食料も底をついた。ロサンゼルスでニュースをチェックしていたマリナさんから電話がかかってきたのはそのころだ。「隣のイルピンとブチャが焼き払われた。すぐ逃げて」
 アンナさんは「外で車に乗ったら撃たれるに決まっている」と取り乱した。イルピンでは女性や子どもを乗せて避難先へ向かうバスが銃撃に遭い、遺体を乗せたまま戻ってきたという話を聞いていたからだ。
 それでも覚悟を決め、手配した運転手の車に乗った。キーウ近郊を走る窓からはロシア軍機が爆弾を落とすのが見えた。「ロケットだ」と外をきょろきょろ見回すマーク君。息子の目を覆い隠そうとするアンナさんの手は、爆撃に巻き込まれた何体もの遺体が散乱する付近で力が入った。周囲の家やビルは黒く焼け落ちていた。
 ブチャなどキーウ近郊の民間人殺害を巡っては早くもロシアに責任回避の動きがみられる。アンナさんは「国際社会がさまざまな証言を共有することが重要だ」と話し、母国で起きた惨劇の真相究明を求めた。
  ◇
 ウクライナの首都は、これまでロシア語読みの「キエフ」と表記していましたが、今後はウクライナ語の発音に近い「キーウ」に変更します。ロシアによる侵攻で命を奪われている人々が求める表記とします。

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