「これが福祉なのか...」困窮者への特例貸付で破産連絡700件超 コロナ禍で大量申請、支援現場に葛藤

2022年4月6日 06時00分
 新型コロナウイルス禍で困窮した人に生活資金を無利子・保証人不要で貸し付ける国の「生活福祉資金の特例貸付制度」の申請期限が、3月末だったのが6月まで延長された。延長は8回目で、困窮者支援の主要政策になっている。ただ制度を巡っては、返済が難しいとみられる人にも積極的に貸し、生活再建につながっていないとの指摘も。窓口の東京都社会福祉協議会(社協)には自己破産の連絡が700件以上相次ぎ、返済が始まる来年1月には全国的にも相当の返済不能な人が発生するとみられ、識者から懸念が出ている。(中村真暁)

生活福祉資金の特例貸付制度 厚生労働省の制度で、コロナ禍で生活に困窮する人に、最大20万円を貸す「緊急小口資金」と、最大60万円を貸す「総合支援資金」がある。各地の社会福祉協議会が貸し付け業務を担う。全国社協によると、制度利用額はリーマン・ショック後の2010年度の49倍にあたる1兆3700億円に迫る。

◆「こんなに自己破産通知が来たことない」

 制度開始はコロナ禍が本格化した2020年3月。もともとあった低所得者向けの制度(緊急小口資金と総合支援資金)を、対象者の要件を「特例」として緩めて借りやすくした。最大200万円を借りられた時期もあり、貸付総額は全国で1兆3700億円に迫る。
 都社協では貸付申請数(延長、再貸し付け含む)は、すでに約65万件(貸付金額は2400億円)。このうち集計可能な20年12月から今年2月までに、裁判所から利用者の自己破産通知が732件あった。社協関係者によると、「カードローンなどの返済が滞り、貸付制度分と合わせて債務整理した人がいるのだろう。こんなに自己破産などの通知が来たことはない」という。
 コロナ禍前は借り手の自立を支えるため、社協職員が返済計画を一緒につくるなど支援してきた。特例後は、コロナ禍での収入減を書面で自己申告すれば申請でき、証明書類提出などは必須ではない。このため大量の申請が寄せられ、十分な相談支援がなされないままで、返済見込みがないのに利用する人が増えた可能性がある。

◆「抜本的な貧困対策を考えるべきだ」

 全国社協によると、リーマン・ショック後の09年度に始まった総合支援資金は、18年度実績で回収予定額約43億円に対し2割程度の返済にとどまった。返済しないまま行方不明になった例もあるという。
 今回の特例では滞納や自己破産者がさらに増える恐れがある。国は所得減が続く住民税非課税世帯に返済を免除する方針だが、23区の単身世帯で年収100万円以下が対象となり、免除対象とならない人は少なくないとみられる。
 花園大の吉永純教授(公的扶助論)は「制度は迅速な資金供給などの意義はあったが、償還(返済)が免除されない低所得者は借金漬けのままで、不安定な生活が続くだろう。減免対象者のさらなる拡大が必要」と指摘。「生活保護を使いやすくするなど、抜本的な貧困対策を考えるべきだ」と話す。

◆社協から疑問の声「事務処理で精いっぱい」

 新型コロナ禍で、困窮者支援のために設けられた特例貸付制度。生活再建につながっていないケースが少なくないとされ、窓口の社会福祉協議会職員からも疑問の声が上がっている。
 「にっちもさっちもいかなくなった」。都内の40代男性は、特例貸付金65万円を使い切った昨春を振り返った。
 失業して困窮し、2020年12月に貸付制度を利用した。うつ症状があって再就職は簡単ではなかったが、社協の面談は事務的で、体調や困窮度合いは一切聞かれなかった。就職できないまま貸付金は生活費に消え、所持金は数百円に。家賃は滞納、電気もガスも水道も止まった。食事は2日に1度だった。
 結局、知人の勧めで生活保護を利用した。貸付金はいずれ返済するつもりという。最初から生活保護を案内されていれば、借りずにすんだ可能性がある。
 こうした例は各地で報告され、社協職員自身も葛藤を抱える。関西社協コミュニティワーカー協会が昨年1〜2月、全国の社協職員約1200人に行ったアンケートに9割以上が「制度の有効性に疑問」と答えた。
 都内の社協職員は「貸し付けができるのは、以前は相談100件中1件ほど。特例後は丁寧な対応がしきれず、事務処理だけで精いっぱいだった。お金を垂れ流しているようなもの」と打ち明け、制度を疑問視。「迅速に対応するには必要だったのだろうが、新たな支援策も考えぬまま、2年間も続けるべきではない」
◆特例貸付制度について関西社協コミュニティワーカー協会アンケートに寄せられた主な声(要旨)

本来のアセスメント(評価)を必要とせず、減収を訴えたら貸し付けが決まる。本当に貸し付けが必要なのか。ジレンマを常に抱えてメンタル面でしんどかった。=市社協

フォローが必要な方が多くいるにもかかわらずマンパワーが足りない。伴走型支援がどこまでできているのか、すごく葛藤している。=市社協

現場の状況や貸し付けニーズの分析がないまま、政治判断だけで相次ぐ(制度)変更があり、市民と相談窓口に混乱を招いた。=都道府県社協

苦しい状況の人に借金をさせている、これが福祉なのか疑問に思う。=市社協

生活が本当に苦しく、追い詰められている方が大勢いる。貸付期間後も収入が戻らず、かといって生活保護の要件に当てはまらない方も多い。生活ができず貧困によって亡くなる方が増えそうで心配。=市社協


おすすめ情報