<新お道具箱 万華鏡>歌舞伎座の大道具 人力で敷き詰める所作台

2022年4月8日 07時18分

「お祭り」の道具帳(舞台を真正面から見たデザイン図)。床には所作台が敷かれている。縮尺50分の1で描かれている(歌舞伎座舞台提供)

 「一尺、前にー!」
 「せーぇのっ!」
 「声出せよー!」
 三月末の歌舞伎座(東京・銀座)。公演準備期間なので客席は空だが、舞台には大勢の人。黒の上下に雪駄(せった)履きの大道具さんたちが、四月二日の四月大歌舞伎初日に向けてせっせと仕事をしていた。
 歌舞伎座の大道具を一手に引き受けているのは、歌舞伎座舞台株式会社。江戸時代から続く「大道具長谷川」の流れをくむ、歌舞伎の全てを知り尽くした大道具会社だ。
 歌舞伎の大道具というと、極彩色の派手な御殿が思い浮かぶが、実は地味な道具が舞台を下支えしている。舞踊などの際に活躍する、床に敷き詰める檜(ひのき)でできた所作台(しょさだい)もそのひとつ。「勧進帳」や「連獅子」でも使われる。幕が開くと、爽やかに広がるあの檜舞台はどう作られているのか。舞台部部長の鈴木栄登(ひでと)さんに話をきいた。

ナグリと呼ばれる大道具用の金槌(かなづち)を手に持つ鈴木栄登さん。「こういう世界観にしたいんだ、という役者さんの理想を具現化するのが大道具の仕事です」

 そもそも歌舞伎座の舞台の床材は檜。その上に、どうして所作台を敷くのですか?
 「舞台の床は、頻繁に釘(くぎ)を打ったり抜いたりしているので、傷んでデコボコしているんですよ。ですから、舞踊の要素がある演目では、足のすべりがいいように、表面がなめらかな所作台を敷きます」
 もうひとつの理由は音。踊りでトンと足拍子を踏んだときに、いい音が響くように工夫が施されている。
 所作台の幅は、三尺(約九十一センチ)。例えば、上演中の「四月大歌舞伎」の「お祭り」では、前後二列で、計六十枚弱の所作台を敷く。その様子を見ると、とにかく早い。あっと言う間に敷き詰めてしまう。

舞台に所作台を敷く様子(歌舞伎座舞台提供)

 「現代では電動の舞台機構も発達していますが、息の合った仲間で、ワッとたかってやったほうが、早くて正確です。人の力って、すごいもんですよ」
 みんなで道具を動かす。その一体感は格別で、「地引き網を引くのと一緒」の楽しさがあると笑う。
 観客が入った客席の花道では、次の舞台の準備のために、黒いたっつけ袴(ばかま)をはいた大道具さんがテキパキと所作台を運び出し敷いていく様子を見られることもある。
 「花道は若い人に任せています。本当は一人でも担げますが、二人一組で運びます。これは安全確保とお客さまに道具の裏を見せない配慮です」
 まばゆい舞台の裏には、大道具さんたちの充実した仕事がある。 (伝統芸能の道具ラボ主宰・田村民子)

鈴木さんのガチ袋(舞台用の道具袋)に入っている道具類。ナグリは、名工の幸三郎(右)、菱貫(左)の作

◆公演情報

 歌舞伎座 四月大歌舞伎
 所作台を敷き詰めた舞台は、第二部「義経千本桜(よしつねせんぼんざくら) 所作事(しょさごと) 時鳥花有里(ほととぎすはなあるさと)」、第三部「お祭り」で見られる。二十七日(十一、十九日は休演)まで。
 予約は、チケットWeb松竹か、チケットホン松竹=(電)0570・000489。

◆取材後記

 歌舞伎の大道具は、飾った道具を人が動かして舞台面を変化させる「転換」が非常に発達している。ゴザをさばく、幕を扱う、雪を降らせるなど小さな動きひとつにも、昔から伝わってきた知恵と工夫が詰まっている。大道具さんの身体(からだ)から身体へと継承されてきた技術は、すごい無形文化だと感じた。ところで、歌舞伎座舞台では、一緒に働く人を募集中とのこと。詳しい求人情報はHPで。(田村民子)

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