19歳「特定少年」報道の多くが実名 少年法改正で解禁、更生妨げる不安拭えず

2022年4月9日 06時00分
 4月1日施行の改正少年法の下、「特定少年」として19歳の男が殺人罪などで起訴された甲府市の夫婦殺害、放火事件。甲府地検は男の実名を公表し、報道機関の多くが番組やインターネット上の記事などで実名で報じた。更生の現場に詳しい専門家からは「実名報道は立ち直りを妨げ、社会にとってもプラスにならない」などと懸念の声が上がる。(小沢慧一)

◆「自業自得と世間は思うだろうが…」

 そもそも少年法改正の議論は、民法の成人年齢の18歳への引き下げに合わせるかたちで始まった。法制審議会では「非行は減少し、現行法は機能している」と改正不要論も上がる中、最後は政治主導で、民法の成人年齢とは別に、18、19歳を「特定少年」と位置付ける与党案を採用した。
 元少年院長の八田次郎さんは「実名報道は報復感情を満たすだけで、社会にとってプラスの要素は一つもない。社会は『少年加害者は許すな』の大合唱だが、少年犯罪は減り続けている。彼らが貧困や虐待に苦しんできた背景や、多くがまじめに更生していく現状を知ってほしい」と訴える。
 「再非行防止サポートセンター愛知」の高坂朝人理事長が支援したある少年は、逮捕時に氏名や写真がネットに書き込まれ、激しい誹謗ひぼう中傷にあった。少年院退院後もネット上の情報は残り、犯罪歴が壁となって氏名の変更もできなかった。現在は親戚の知人の会社で働くが、出勤以外の外出は控え「四六時中誰かに見られていないか気にしながら孤独に生きている」という。
 高坂さんは「自業自得と世間は思うだろうが、罪を犯した少年もいずれ社会に戻らなくてはいけない。実名の解禁に合わせ、新たな支援策も打ち出すべきだ」と訴える。

◆大事件のたび割れてきた議論

 少年法は実名報道を禁じるが、社会を揺るがす大事件のたび「知る権利」か少年のプライバシーかで議論が割れてきた。1968年の連続4人射殺事件では、当時19歳だった永山則夫元死刑囚を「歴史的事件の当事者」として、大半の報道機関が実名で報道。97年の神戸連続児童殺傷事件では、逮捕された14歳の少年の顔写真を週刊誌が掲載して物議を醸した。
 今回の法改正を受け、新聞やテレビなど主要メディアが加盟する日本新聞協会は、特定少年の実名報道について「各社の判断において行う」との方針を示している。専修大の沢康臣教授(ジャーナリズム論)は「実名解禁は重大事件を犯した例外的な少年に限られる。検証の必要性は大きく、実名は必要だ」と述べる。
 原則、匿名報道とすべきだと主張する元同志社大教授の浅野健一氏は「特定少年についても私人の場合は匿名を前提に報道界で統一のガイドラインを定めた上で、各社が公益性とプライバシーを比較検討して、起訴された少年を実名にする必要性があるかを議論し、判断する仕組みをつくるべきだ」と指摘する。
  ◇
 改正少年法の施行で、18、19歳の「特定少年」が起訴された場合は実名報道の禁止が解除されたことに伴い、甲府地検は8日に起訴した19歳の被告の男の実名を発表しました。
 東京新聞は、事件や事故の報道で実名報道を原則としていますが、20歳未満については健全育成を目的とした少年法の理念を尊重し、死刑が確定した後も匿名で報道してきました。
 少年法の改正後もこの考え方を原則維持します。社会への影響が特に重大な事案については、例外的に実名での報道を検討することとし、事件の重大性や社会的影響などを慎重に判断していきます。

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