アメリカでウイグル文化を守る19歳の決意 言葉、踊り、宗教学ぶ「スクール」運営 故郷中国では弾圧続く

2022年4月13日 16時00分
 米北東部ボストン周辺のウイグル族の人々が、ウイグル語や固有の文化を伝承する活動を強めている。中心の1人は中国の新疆ウイグル自治区から渡米した19歳の男性。故郷では中国政府によるウイグル族への弾圧が強まるが「米国で自分たちのアイデンティティーを守りたい」と決意は固い。(マサチューセッツ州で、杉藤貴浩)

 米国のウイグル族 中国以外に住むウイグル族は中央アジアを中心に最大100万~160万人と推定され、米国には5000人以上が暮らす。ボストン・ウイグル協会によると、首都ワシントン周辺に最大のグループがある。漢族との摩擦や中国当局による強制収容などを恐れて逃れてくる人々も多い。米政府は昨年1月、一連の弾圧をジェノサイド(民族大量虐殺)と認定した。

3月、米ボストン郊外で民族衣装を着て踊りを披露するウイグル族の少女ら。米国で独自の文化を守る取り組みが続く=杉藤貴浩撮影

 3月下旬のボストン郊外の集会所。この日はウイグル族が新春の訪れを祝う「ノウルーズ」の行事を開いており、芝生の庭にはラム肉の焼ける香ばしいにおいが漂っていた。100人ほどの参加者は、ボストン周辺に住むウイグル族の半分ほどだという。
 「肉はポロというピラフみたいな料理に入れます。食べていってください」。そう勧めてくれたのはシディクさん(19)。この日の行事を切り盛りし、普段は父(50)らとともに「ボストン・ウイグル・スクール」を運営する。

新春の祝い「ノウルーズ」で司会のマイクを持つシディクさん=杉藤貴浩撮影

◆ウイグル語の衰退に危機感

 スクールは3年前に設立された非営利団体。35人の子どもたちが通常の学校教育とは別に、週末などを利用してウイグル語や民族の踊り、宗教や習慣などを学ぶ。シディクさんは自身の大学進学を一時的にあきらめ、資金調達やウェブサイト作成などに注力している。
 そこには5歳で家族とともに故郷を離れ、米国で育った経験が深く関わっている。「13歳の時に家族と一度、新疆に戻ったらウイグル語が口からうまく出てこないようになっていた。ウイグル族としての自分が(米国に)同化してしまうように感じた」
 さらにショックだったのは、自治区の中心都市ウルムチでの光景だ。「道路標識は中国語で大きく書かれ、ウイグル語はその上にごく小さくあるだけ。こうして言葉や文化は衰退していくのだと感じた」とシディクさん。タクシーの窓から外を見ると、道路に非常に多くの給水栓が設置されているのに気づいた。運転手は「ウイグル族による中国政府への抗議デモの際、放水のために使われる」と話したという。
 帰省時に会ったおじは間もなく、中国政府が「再教育施設」と呼ぶ収容所に2年ほど入れられた。シディクさんは自分たちが訪ねたせいだと思い、現在はおじと連絡をとっていない。いとこも収容所に入れられ、消息が途絶えたままだ。

◆米国でも直面する「圧力」

新春の祝い「ノウルーズ」で振る舞われた料理。辛めの味付けが食欲をそそる=杉藤貴浩撮影

 ノウルーズの集まりでは、大人から子どもまで誰もが伝統の食や踊りを楽しみ、初対面でも、にこやかに話しかけてきた。ただ、実名で取材に応じ写真に顔を見せる大人はいない。「嫌がらせや脅迫を受けることがあるから」と話すシディクさんも仮名だ。
 実際、3月には名門コーネル大で中国によるウイグル族弾圧について話した女子学生にブーイングが起き、多数の中国人学生が抗議して出て行くといった騒動も報じられた。米国でもウイグル族は中国による圧力と無縁ではない。
 それでもシディクさんは新型コロナウイルス感染が落ち着いた今、スクールの活動を拡大していくことを目指す。「ロシアに侵攻され、われわれと同様に基本的人権を侵されているウクライナの人々への寄付も始める」。故郷から遠く離れても、民族の文化の灯を絶やさぬことが抵抗につながると信じている。

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