好きだった少年の自殺を止めなかった理由「分からない」 20歳女性、法廷で何聞かれても黙り込む
2022年4月14日 06時00分
<法廷の雫 >
3月8日、千葉地裁7階の小法廷は長い沈黙に包まれた。法廷中の視線が、証言台の前に座った黒いスーツの小柄な女性(20)に集まる。交際相手の少年の自殺をほう助した罪に問われた公判の被告人質問。女性は裁判官から何を聞かれても黙り込んだ。
半年ほど前の2021年8月、女性は当時18歳だった少年と夜中に千葉県流山市の公園に向かった。少年は風邪薬を乱用した後、遊具につるしたロープに自らの首をかけた。女性は頼まれて脚立を外し、少年が宙づりになった。
弁護人「なぜ自殺を止めなかったのですか」
被告「何度も止めたけど、聞いてくれませんでした。誰にも言わないでと言われました」
弁護人「どうして死にたいのか、理由を聞かなかったの」
被告「生きているのがつらいとしか言ってくれませんでした。好きでした。最後は本人の希望通りにしてあげたいと思いました」
◆出会った当初から願望
2人は事件の半年前、交流サイト(SNS)を通じて交際をスタート。少年にとっては、前妻と離婚して間もなくのことだった。女性には、出会った当初から自殺願望を明かしていた。女性のアパートで同居を始めたものの、互いの仕事と生活は安定しなかった。
公判には、亡くなった少年の父親と兄が被害者参加制度を利用して出廷した。調書によると事件の10日前、兄は少年を誘ってドライブに出かけた。深く悩んでいるようには見えなかったという。
父「あなたには自殺を止めるチャンスがあった。親より先に子どもが逝くことがどれだけ悲しいか分かりますか」
兄「目の前で首をつるのを見ていられるのが分かりません」
2人は赤くした目で女性を鋭くにらみ、意見陳述した。席に戻ると、ともに目頭を押さえてうなだれた。
被告人質問では、検察官や裁判官の疑問は「好きだった交際相手の自殺をなぜ止めなかったのか」という点に集中した。女性は、考え込んだ末に「分からない」。消え入るような声で繰り返した。
千葉地裁は、女性に懲役2年、執行猶予3年の判決を言い渡した。なぜ少年が命を絶とうと思ったのか、なぜそれを防ぐことができなかったのか、最後まではっきりしなかった。
◆10代の自殺、右肩上がり
10代の自殺は近年右肩上がりで増えている。12~18年は500人台で推移したが、19年は659人、20年は777人、21年は749人。
未成年の自殺予防に取り組むNPO法人「チャイルドライン」の小林純子さん(71)によると、たとえ自殺願望を明かされても、同世代の若い友人らの場合、困惑したりこわがったりして、家族や学校、相談ダイヤルなど適切な連絡ルートにつなげられないケースもある。「相談された側がどう対応するべきか学んでもらう機会も必要だ」
閉廷後、法廷を出た父親に声をかけた。納得できず、気持ちの整理がつかないと言った。そしてつぶやいた。「生きていてほしかった。生きてさえいれば、なんとでもなったじゃないですか」(加藤豊大)
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「法廷の雫」では、法廷で交錯する悲しみや怒り、悔恨など人々のさまざまな思いを随時伝えます。
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