原発処理水海洋放出の方針決定から1年 埋まらぬ政府と漁業者の溝、変わらぬ東電への不信感

2022年4月14日 06時00分
 政府が東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出方針を決めてから、13日で1年。魚介類の風評被害への懸念から漁業者の反対は根強く、溝は埋まらぬままだ。事故を起こした東電は政府方針を盾に着々と準備を進めるが、地元の「理解」を得るために動くべきトップの姿は見えない。(小川慎一、小野沢健太)

 福島第一原発の処理水 1~3号機原子炉に注入した冷却水が事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)に触れ、建屋に入る地下水や雨水と混ざって発生する汚染水を多核種除去設備(ALPS)で処理した水。取り除けない放射性物質トリチウムが国の排出基準を上回る濃度で残る。政府と東京電力は、大量の海水でトリチウム濃度を排出基準の40分の1未満に薄めて海へ流す計画を進めている。

◆不在の東電に「信頼は一切ない」

 「海洋放出には絶対に断固反対だ」。全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏会長は今月5日昼、東京都中央区の事務所で向かい合った萩生田光一経済産業相に断言した。
 萩生田氏は初めて事務所を訪れ、全漁連の要望に対する政府の回答書を提示。しかし漁連側は反対姿勢を崩さず、約20分の面談は何の進展もなく終わった。

全漁連の岸宏会長(右)に申し入れへの回答書を手渡す萩生田光一経済産業相=5日、東京都中央区で(代表撮影)

 岸会長は面談後、報道陣に淡々と「反対の立ち位置はいささかも変わらない。政府との距離感は1年前の方針決定の時と同じ」。その場にいなかった東電について「(信頼は)一切ない。東電の姿勢は極めて不十分だ」と早口になった。
 実際、東電の小早川智明社長はこの1年、全漁連や福島県漁連に足を運んでいない。3月11日の取材に「説明を聞いてもらえる状況にない」と答え、処理水の処分について東電トップは消極的なままだ。

◆風評被害の対策は金

 処理水放出に伴う風評被害を前提に、政府はさまざまな対策を掲げる。目玉は萩生田経産相が回答書で示した「超大型の基金」の創設。だが、政府と全漁連との間で認識のずれもある。
 政府は既に、水産物の価格下落や需要の低迷に備えるため、300億円の予算を確保した基金を用意済み。これを踏まえ、岸会長は「300億円とは別に漁業者が将来しっかり(生業を)継続できるための別の基金と理解している」と話した。
 経産省の担当者は5日夕、報道陣への説明で「新たな基金の創設を約束したものではない」とけん制。だが政府回答は、基金を「将来にわたり安心して漁業を継続できるようにするため」と明記している。全漁連の「誤解」とするには無理があり、しこりを残した。

◆迫るタンク満杯 約束は守れるか

 「関係者の理解なしには、いかなる処分もしない」。政府と東電は2015年、処理水について福島県漁連にそう約束した。萩生田経産相は「順守する」と明言。東電の小早川社長もこれまでの取材に「必ず守る」と強調している。
 東電は理解を得ようと、770カ所以上で説明会を開催し、うち漁業関係者は42カ所という。「理解と了解は別。説明を受けて国がやろうとしていることの内容の理解だけはしたいが、(海洋放出を)了解することはできない」。福島県漁連の野崎哲会長は5日の報道陣の取材に、硬い表情を崩さなかった。
 原子力規制委員会による放出設備の審査は月内にも事実上終わり、沖合1キロから放出するために新設する海底トンネルの着工に向けた環境が整いつつある。一連の工事費用は約350億円とされ、漁業者向けの基金を大きく上回る。
 政府と東電の計画では、放出開始まで残り1年。処理水の発生量が減っているものの、「23年春ごろにタンクが満杯」という前提を見直す動きはない。

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