封印されていた300人以上の戦争証言、公開向け一歩前進 慎重だった自民含め都議会主要会派が前向きに
2022年4月15日 06時00分
東京大空襲など戦争体験の記録として、東京都が1990年代後半に収録した300人以上の都民の証言ビデオが未公開となっている問題で、本紙が都議会主要各会派に質問したところ、いずれも公開に前向きか容認する姿勢を示した。特に慎重とみられていた最大会派の自民が「広く見てもらえるよう取り組むべき時だ」と初めて明言、都に働きかけていることを明らかにした。他会派も公開の必要性は認識しており、公開に向けて環境が整いつつあることが分かった。(井上靖史)
◆非公開理由は「議会合意がない」
都はこれまで「議会の合意が得られていない」ことを理由に非公開を続けてきた。議会側で具体的に方向性がまとまれば、今後は都側の対応が問われることになる。複数の会派幹部は「超党派で公開に向けた協議を進められれば」としている。
本紙は、都が公開していない証言者や遺族を独自取材で探し、本人に渡されていた非公開のビデオを見せてもらい、内容を昨年9月から紙面で取り上げてきた。先月から都議会の自民、都民ファーストの会、公明、共産、立憲民主の各会派責任者にインタビューを申し込み、事態をどう考えているか、見解を求めた。
自民の小宮安里幹事長はビデオが四半世紀にわたり封印されたままとなっている状態を「都民の大きな損失。証言した方や、ご遺族に大変申し訳なく思う」と言及。その上で「このままではいけない。自民党として(担当の)都生活文化スポーツ局に非公式だが申し上げている。一日も早く公開できるよう環境を整備する必要がある」と述べ、事態解決に向けて動く考えを示した。
◆「祈念館(仮)」建設よりビデオ公開を先に
都が証言ビデオを非公開としているのは、証言を公開する予定だった「都平和祈念館」(仮称)の建設を巡って、「都議会の合意を得た上で実施する」とした1999年の都議会決議があるため。決議は当時、保守派の論客として知られた都議が複数所属していた自民が主導した。だが今回、小宮幹事長は「時代も変わる」と説明。具体的な公開の方法について「必要なものは切り分けて考える」とし、祈念館以外での展示方法も探ることを提案した。
一方、第2会派で小池百合子知事与党の都民ファは「公開前に資料の精査が必要」としつつ「いろいろな形で見せられれば」と回答。公明も「公開対象を広げるべき」と答えた。小池都政への野党的立場の共産、立憲民主は、祈念館という拠点整備を重視する考えを示しながら、公開に向けて一致点を探るべきだとの姿勢を示した。
封印されたビデオ問題 都が1990年代後半、1億円の公費を投じて戦争体験者330人分を撮影。戦争犠牲者の追悼施設として建設が計画されていた「都平和祈念館」(仮称)の目玉展示となる予定だった。だが都議会は祈念館の展示内容を巡り、日本の戦争加害や歴史認識で紛糾。98年と99年に「建設は、展示内容について都議会の合意を得たうえで実施する」などとする付帯決議つきでの関連予算案を可決した。都は99年に祈念館の整備計画を凍結。証言ビデオは例外的に公開された9人分をのぞき、未公開のまま倉庫で眠り続け、証言した人が誰なのかも非公開となっている。
◆ウクライナで戦争が起きている今こそ
東京都が、戦争体験を伝えるビデオ資料を非公開とし続けてきた問題。都議会各会派は、問題の出発点だった都平和祈念館(仮称)建設には依然、温度差があるが、資料活用には必要性を指摘した。
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