ビアホール 88年の歴史醸す風合い 銀座ライオンビル 有形文化財に

2022年4月15日 07時11分

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 華やかな街・銀座で創建88年を迎えた「銀座ライオンビル」=写真<1>=が今年2月、国の登録有形文化財(建造物)になった。ビルには現存する日本最古のビアホールがある。巨大なガラスモザイク壁画や、大麦を表現した柱など各所に工夫を凝らした内装は「ビアホール建築の一大傑作」と評されている。
 銀座6丁目交差点に立つ地下1階、6階建てのビル。一見よくある古い建物に見えるが、1階の「ビヤホールライオン銀座七丁目店」に入ると、一瞬にして教会にいるような雰囲気に包まれた。

現存する日本最古のビアホール「ビヤホールライオン銀座七丁目店」=いずれも中央区で

 内装のテーマは「豊穣と収穫」。最も目を引くのが店内奥のガラスモザイク壁画。縦2.75メートル×横5.75メートルもあり、大麦を収穫する女性たちや愛を象徴するアカンサスの花が、250色の国産ガラスで描かれている。

「豊穣と収穫」がテーマのガラスモザイク

 れんがのように見える壁はタイル張りで、「大地」をイメージしたくすんだ紅色。巨大な梁(はり)に支えられた空間は広く、天井は高い場所で7メートルもある。店を運営する「サッポロライオン」の広報によると、天井はもともと白かったが、たばこなどですすけ、歴史を感じる風合いになった。
 ホール左右に並ぶ太い柱は、緑のタイルと天井に伸びる矢尻型の装飾で「大麦」を表現。ビールの泡をイメージした水玉模様の照明や、薄く色づいたブドウの房のようなシャンデリア=写真<2>=も幻想的な空間を演出する。

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 文化審議会は「我国ビヤホールの一大傑作」と文科相に答申。建築史、歴史的建造物の保存修復に詳しい工学院大の後藤治理事長は「ビールを飲みたいという人だけが集う意味で客層が限定的だが、銀座に1世紀近く存在してきたことは特筆。壁画や柱などに芸術を取り入れた内装の豪華さは再現不可能で、創建当時から多くの人を楽しませてきた。建築空間が企業のブランディングに果たす役割の大きさを示した好例」と解説する。
 1934(昭和9)年、サッポロビールなどの前身となる大日本麦酒の本社ビルとして完成した。設計は旧新橋演舞場で知られる建築家・菅原栄蔵。サッポロライオンによると、当時の馬越恭平社長に依頼された菅原は、「天下一の建物に」という思いで設計をしたと伝わる。
 太平洋戦争では奇跡的に空襲を逃れ、終戦後は進駐軍専用のビアホールとして接収されたが、52年に解除されると、再び一般市民も楽しめる場となった。
 ビールの注(つ)ぎ方にも技が光る。一般的な方法は液体を注ぎ、泡を最後につけるが、「注ぎ手」と呼ばれる店のスタッフは泡を作りながら注ぐ「一度注ぎ」で提供。流れる動作で「ビール7対泡3」の黄金比を生み出す。注ぎ手の一人、佐々木有さん(36)は「雑味を泡に閉じ込めるので、すっきりとしたのど越しと苦みの少ないビールを楽しめます」と話す。

「注ぎ手」の一人、佐々木有さん

 88年前に銀座でビールを飲むのはとても格式高そうに感じるが、そうでもなかったようだ。総支配人、岡本優さん(43)=写真<3>=は「どんな階級の人も同じようにビールを飲める場所をつくりたい思いがあったと聞いている。これは昔も今も同じです」。実際、当時から歌舞伎役者や芸人もいれば、車夫がさっとビールを立ち飲みしていったという。

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 今月8日に88年を迎えたビヤホールライオン。岡本さんは「ようやく米寿。90年、100年のお祝いもお客さまとしたい。本場ドイツのホフブロイハウスは400年以上の歴史があるから、そこも目指していきたいです」とほほ笑んだ。
 文・山下葉月/写真・高嶋ちぐさ
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