理想目指す姿 見せたい 「切語り」昇格の竹本千歳太夫が抱負 国立小劇場 五月文楽「競伊勢物語」

2022年4月15日 07時27分

「切語り」に昇格し、抱負を語る竹本千歳太夫=大阪市中央区の国立文楽劇場で

 東京・国立小劇場の五月文楽公演第二部は、東京で三十五年ぶりとなる「競(はでくらべ)伊勢物語」。後半の「春日村の段」の太夫(語り)は、四月に物語のヤマ場「切り場」を語ることを正式に許される「切(きり)語り」に昇格した竹本千歳太夫(62)が務める。帝位争いで追われる身となった歌人の在原業平(ありわらのなりひら)と井筒(いづつ)姫を救うための人々の苦闘を描いた物語に、「香気立ちこめるようなみやびな語りをしたい」と意気込む。 (堀井聡子)
 池の底に「三種の神器」の鏡が落ちていると聞きつけた信夫(しのぶ)が、業平に仕える夫の豆四郎に忠義を立てさせようと、死罪を覚悟で神鏡を手に入れる。信夫は母の小よしに罪が及ばないよう、つらく当たって勘当されようとするが、優しい小よしは怒りもしない。そこから物語は急転。信夫を置いて去った父の紀有常(きのありつね)が現れ、娘を返せと主張。その裏にとんでもない思惑があり、信夫と豆四郎に悲劇的な結末が待ち受ける…。
 さまざまな立場の登場人物が入り乱れる作品だが、「キーパーソンは小よし」だという。
 内緒で鏡を手に入れようとする信夫、たくらみのためにやって来た有常など、出てくるのは腹に一物抱えた人ばかり。一方、小よしは思惑を知らず、ただただ皆の言葉を信じている善良な存在だ。
 「善人でも悪人でも、何か腹に持っていると表現のとっかかりがあるけど、善良な人を語るのは難しい。心の中に何か隠しているんじゃないかと、観客が勝手に探ってしまう」。だが小よしがいるからこそ、他の登場人物との対比になる。「全体を引き締めるためには必要な存在」と語る。
 競伊勢物語は、中学二年の時、人生で初めて劇場で見た人形浄瑠璃文楽の演目で、思い出深い作品だ。東京の下町、深川に生まれ、子どものころから伯母に連れられていろいろな芝居を見るうち、迫力ある義太夫節に興味を持った。入門から四十四年。全身全霊という言葉を体現するように、床本(ゆかほん)を置く見台(けんだい)から大きく身を乗り出しながら語る姿は、気迫に満ちる。
 太夫の最高位「切語り」に昇格したとはいえ、切語りが一人しかいなかった三月まで何度も切り場を務めており、「切語りになってもやることは同じと思っていた」。違うのは責任の重みだ。
 「自分の責任は、後に続く人に理想の語りを目指す姿勢を見せること。たとえ中途半端な自分でも。理想に届くなんて本当はできっこないだろうけど。完璧なんてない」。今の自分の全てを、語りに込める。

「競伊勢物語 春日村の段」より(国立劇場提供)

<たけもと・ちとせだゆう> 1959年生まれ、東京都出身。78年、人間国宝の四代竹本越路(こしじ)太夫に入門。79年に竹本千歳太夫の名で初舞台。2005年、八代豊竹嶋太夫の門下となる。22年4月から切語りに昇格。国立劇場文楽賞大賞(16、20年度)、芸術選奨(演劇部門)文部科学大臣賞(21年度)など。

◆国立劇場5月文楽公演(5月7〜24日、12日は休演)

 ▽第1部(午前11時開演)「義経千本桜」
 ▽第2部(午後2時半開演)「競伊勢物語」
 ▽第3部(同5時45分開演)「桂川連理柵(れんりのしがらみ)」
 国立劇場チケットセンター=(電)0570・079900。

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