<ブルボン小林 月刊マンガホニャララ>(36)大先生も描いた 若者の自立

2022年4月18日 07時16分
 自分の話で恐縮だが二〇一〇年刊行の拙著『マンガホニャララ』表紙に描かれたのは『忍者ハットリくん』だ=写真。彼がなんともリラックスした様子で漫画を読んでいる絵が一面にドーンと掲載された、我(われ)ながら気に入りの表紙である。藤子不二雄(A)先生の太めの線で描かれるキャラクターで、老若男女に「楽しそうな漫画評」と伝えることができた。
 もっとも、原作の彼はこんな弛緩(しかん)した姿をみせたことはない。使用どころか変更をも快諾してくださった(A)先生には今も感謝の気持ちでいっぱいだ(以下、敬称略でいきます)。
 ハットリくんも『怪物くん』にもダークなムードがある。コンビを組んでいた藤子・F・不二雄の作風との比較によってでもあろうし、(A)自身のその他のヒット作(『笑ゥせぇるすまん』や『魔太郎がくる!!』など)の印象も相まってのことだろう。
 だが、Fより(A)の諸作の方がずっと「健全」だ。『怪物くん』の主人公は怪物ランドの王子で、親元を離れてはるか人間界を視察にやってきて、ヒロシ少年と出会う。ヒロシはというと、姉さんと二人暮らしだ(事情は明かされない)。姉の誕生日のためヒロシは新聞配達のアルバイトをする。ハットリくんも伊賀の里を単身離れ修行に出て、ケン一少年の家に厄介になるが、家賃の支払いを申し出て(小判で支払い)、やがて自立する。
 『プロゴルファー猿』も少年がゴルフで稼いで家族を扶養する話だし、代表作の自伝的作品『まんが道』は「漫画家になる」筋ばかり注目されるが、それ以前に若者の自立を徹底して描いた漫画といえる。
 怪物くんもハットリくんも、親元を離れるに際し、少しも悲壮な顔をみせない。というか、親元を離れるときの一幕が省かれている。一話目から説明もなく実家を遠く離れた都市に、ただ立っている。それが二人ともクールでかっこよいのだが、不穏でダークな印象も与えることになった。漫画家になる前から新聞社に就職して実家に金を入れ、遠く富山から夜行列車に長く揺られ漫画家にならんと上京した(A)にとって、若者の自立は劇的でもなんでもない、当然のことだったのだ。ギャグの楽しさも含め、改めて今の子供たちにも触れてもらいたい。

作・かわさき健 画・古沢優『オーイ!とんぼ』 *『週刊ゴルフダイジェスト』(ゴルフダイジェスト社)で連載中。既刊37巻。

 子供の自立は普遍的なテーマで、今の漫画だと『オーイ!とんぼ』の主人公、大井とんぼのそれから目が離せない。幼くして両親と死に別れ、自然豊かな離島で育ったとんぼは野良遊びとしてゴルフを楽しんでいた。島仕込みの我流のゴルフで、3番アイアン一本でエリート少年少女を翻弄(ほんろう)していく、現代の『プロゴルファー猿』といっていい筋だが、決して荒唐無稽でない、最新のゴルフ理論に裏打ちされた緻密な描写で、スポーツ漫画としても面白い。
 ゴルフを球遊びとみなし、プレッシャーと無縁で、それゆえに神がかったプレーをみせるとんぼだったが、巻が進むごと勝つことに意欲を持つ。自分の活躍が、島の皆への恩返しになると分かってきたから。
 かつて(A)が諸作品で自立の先に描いたのも、親への孝行だった。「とんぼ」では、わき役たちも親の厳しい教えに、ときに反駁(はんばく)しながら乗り越え、感謝の涙を流してみせる。ここで描かれるのはクールでない、泥くさい「孝行」だが、これもまた心地いい漫画の体験だ。
(ぶるぼん・こばやし=コラムニスト)

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