泉 麻人【東京深聞】六区裏でホットサンド『ローヤル珈琲店』(台東区・浅草)~ぐるり東京 町喫茶さんぽ~

2022年4月22日 09時30分
 

「泉麻人 絶対責任編集  東京深聞とうきょうしんぶん」がリニューアル!泉麻人さんとイラストレーターのなかむらるみさんが、東京の喫茶店をめぐる街さんぽエッセイ。さんぽ途中で町の喫茶店を訪れ、店の生い立ちなどをマスターに深く聞きます。今までの「東京近郊気まぐれ電鉄」もバックナンバーとしてお読みいただけます。

六区裏でホットサンド『ローヤル珈琲店』

 前回曳舟を取材した後、(◆文末参照)十間橋まで歩いてきた。この橋は東京スカイツリーの眺望ポイントとして知られるが、橋際にぽつんと建つ「シロウマ」というタバコ屋付きの喫茶店もそそられる。今回、この店には立ち寄らないが、浅草通りのバス停から上野松坂屋前行きの都バスに乗って、浅草へ向かうことにする。
 
 スカイツリーのたもとを通って、吾妻橋を渡り、浅草寿町を過ぎて菊屋橋でバスを降りた。ここは食器問屋が並ぶ「かっぱ橋商店街」の入り口。角の洋食器ニイミのビル上に玄関の目印のように“巨大コック像”(ニイミの創業者がモデル)が掲げられている。こちらに目を奪われて見落としがちだが、対面の同じくニイミのビル外壁のコーヒーカップも可愛らしい。
 食器サンプルに看板、のれん…キッチュな趣きも漂う業務用の道具店を覗き見しつつそぞろ歩く。かっぱ橋の名前の道路標示なんかには「合羽」とあてられているけれど、雨合羽の職人がいたのと、河童かっぱの伝説と、主に2派の由来説があるという(最近は河童のオブジェも町角に増えた)。
 東方に見えるスカイツリーを目印に浅草の中心街の方へと足を向ける。浅草はいい感じの町喫茶が豊富な地域だが、一昨年、「アンヂェラス」という名店がとうとう消えてしまった。アンヂェラスとともに、僕がよく立ち寄るのが、浅草六区のROXの東裏、公会堂近くにある「ローヤル珈琲店」。人でにぎわう道からちょっと横に入った、程良く隠れた立地環境も気に入っている。
 落ち着いた焦茶色の店は、玄関戸のすぐ脇に焙煎室がある。毎朝焙煎が行われるらしいが、以前朝方にやってきた(開店は8時)とき、煙を外に出すために開けた窓からハトが飛びこんできたのをよく覚えている。10年ちょっと前の話だが、マスターはその頃のオヤジさんから息子さんに引き継がれていた。
 「父が1962年に始めたんですよ」と、歌舞伎役者みたいな男前の顔立ちをした現マスターがいう。
 玄関戸から入ると、一段高い所に応接間風のテーブル席が広がっていて、左側にマスターや従業員が立ちはたらくカウンター(厨房)がある。ベルベット張りのイスや店内の仄暗さの塩梅あんばいがどことなく関西(とくに京都・神戸)の古い喫茶店を思わせる。そして、ここのコーヒーも京都のイノダで飲むような濃いめの味でクリームとの相性がいい。なかでも、「中沢の生クリームをたっぷり使用した」といういわくつきの「ロワイヤル珈琲」というのがこの店の看板メニュー。さらにホイップしたクリームが盛られた「クリーミィロワイヤル」というのもある。別にカフェ・オーレ、ウィンナー珈琲などのメニューもあって、ともかくクリームを入れたコーヒーに力を入れていることが伝わってくる。
 軽食の方ではホットサンドが有名だ。具を挟んだ食パンをプレス焼きしたホットサンドは、近頃の純喫茶で復活しつつあるメニューといえるが、ここは昔からやっていて、中身もコンビーフとかローストポークとか(あずきバターってのもある)凝っている。
 とろけたチーズとアスパラガスも入ったコンビーフのホットサンドにロワイヤル珈琲を味わって、もう1品ローヤルの定番スイーツ「鎌倉山チーズケーキ」というのを注文する。鎌倉山は先頃「気まぐれ電鉄」の連載最終回(◆文末参照)で立ち寄った、緑のある地でもある。鎌倉山の菓子工房から仕入れているレモン風味のチーズケーキはマスターの母上がメニューに取りいれたものらしい。

<上>コンビーフチーズのホットサンド(600円)<下>鎌倉チーズケーキ(450円)とロワイヤル珈琲(660円)

 ところで、店を訪ねたこの日は3月の下旬で、卒業式帰りとおぼしき和服の女子学生が何組か店に入ってきた。仲見世でも見掛けた羽織・袴の大正スタイル――頭にキツネのお面や大きなリボンを付けている女の子を見て、そうか!と思った。「鬼滅の刃」の世界がお手本なのだ(卒業式に限らず、こういう鬼滅センスの和服で浅草を歩く若い人が増えているようだ)。

今回訪れた喫茶店

ローヤル珈琲店 本店
住所 東京都台東区浅草1-39-7
営業時間 8:00~20:00
定休日 無休
※新型コロナウィルスの影響で、掲載したお店や施設の臨時休業および、営業時間などが変更になる場合がございます。事前にご確認ください。
※2022年4月22日時点での情報です。

◆文中で紹介した記事リンク
・前回取材した曳舟の記事
鳩の街の古民家喫茶『こぐま』(墨田区・東向島)~ぐるり東京 町喫茶さんぽ~
・「気まぐれ電鉄」の連載最終回 「鎌倉山のチーズケーキ」の記事
正しきローカル鉄道 江ノ電・裏名所探訪(後編


PROFILE

◇泉麻人(コラムニスト)
1956年東京生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、編集者を経てコラムニストとして活動。東京に関する著作を多く著わす。近著に『黄金の1980年代コラム』(三賢社)『夏の迷い子』(中央公論新社)、『大東京23区散歩』(講談社)、『東京 いつもの喫茶店』(平凡社)、『1964 前の東京オリンピックのころを回想してみた。』(三賢社)、『冗談音楽の怪人・三木鶏郎』(新潮新書)、『東京いつもの喫茶店』(平凡社)、『大東京のらりくらりバス遊覧』(東京新聞)などがある。『大東京のらりくらりバス遊覧』の続編単行本が2021年2月下旬、東京新聞より発売された。
◇なかむらるみ(イラストレーター)
1980年東京都新宿区生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒。著書に『おじさん図鑑』(小学館)、『おじさん追跡日記』(文藝春秋)がある。
https://tsumamu.tumblr.com/

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