<ふくしまの10年・お先に花を咲かせましょう> (8)「心」の引きこもり

2020年4月9日 02時00分

デイサービス施設を開設した大井千加子さん=福島県南相馬市小高区で

 原発事故から十年目に入った。時間の長さをどう感じるかは人それぞれだろう。福島の人たちの年月は、ところどころ凍っていて「節目」ですらないのかもしれない、と取材するうち感じるようになった。
 第六回で紹介した、双葉屋旅館(南相馬市小高区)で働く宮下季子(ひでこ)さん(62)は「避難していた間、時間が止まっていた」と話していた。小高区西部の大富地区に二〇一七年、デイサービス施設を開設した大井千加子さん(58)は「私、五年間、心の引きこもりだったんです」と教えてくれた。
 一一年三月の東日本大震災当日、大井さんは南相馬市原町区の老人保健施設で入所棟介護長として働いていた。利用者と避難途中、津波にのみ込まれ、三十人以上が犠牲となった。
 助かった利用者を受け入れてくれた福島市の施設で働きながら、遺体が見つかったと聞けば身元確認で安置所に通った。頭の毛が抜けてつるつるになった姿を見ても、感覚がまひしていた。一年後、原町区で在宅介護の仕事に就いた。働きづめだった。「一人でいると暗闇にぼーっと引きずり込まれる気がして」
 震災の体験談を人前で話したときに体が震えた。津波の後、ずぶぬれで抱きかかえた遺体の重さが腕によみがえってきた。体からその感覚が抜けるのに何年もかかった。「トラウマ(心的外傷)とか自分とは関係ないと思っていたけど違っていた」。心の傷の深さを自覚した。
 「(震災から)六年目も七年目もその状態ではいたくなかった。目的があることに動きだせば、暗闇から引っ張り上げてくれる」。
デイサービス施設を造ることを決断し、友人が「もうここには住まない」と決めた大富地区の家を借りた。それは別の悲しみを伴う選択でもあった。

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