日本で唯一 トレーラーバスの旅 武蔵五日市駅〜日の出町・つるつる温泉 山あい走る片道20分

2022年4月20日 07時05分

国内唯一のトレーラーバス、西東京バスの「青春号」。前方が運転席のあるけん引車、後部が客車=いずれも日の出町で

 JR武蔵五日市駅(あきる野市)−つるつる温泉(日の出町)間で、日本で1台のトレーラーバスが走っている。運転に必要な免許はトレーラーバスにしか使えない「けん引二種」で、めったに持っている人もいない。貴重なバスに貴重な運転士−。どんな乗り心地なのか、確かめてみた。

「青春号」に乗り込む利用客

 武蔵五日市駅前のロータリー。トレーラーバス「青春号」が、ゆっくりと回ってきた。前方のけん引車は機関車、乗客が乗る車両はSLの客車をイメージしている。けん引車を運転する運転士とは別に、客車には乗務員が乗り、マイクで行き先を案内する。カーブのたびに揺れて乗り心地は良いとは言えないが、片道約二十分、山あいを鉄道で旅している気分を味わえた。
 青春号は日の出町が西東京バスに委託する路線バス。「つるつる温泉」開業の一九九六年、観光の目玉として導入された。町役場の担当者によると、日の出山や御岳山を巡り、温泉で疲れを癒やして帰路につく登山客も多いという。「町民にとっては見慣れたバスですが、バスに乗るために訪れる人もいるようです」
 「日本で唯一」のトレーラーバス。走り始めてから二十五年たっても、観光効果はあるようだ。しかし、かつては、乗客用車両をけん引するトレーラーバスは全国で見られた。日本バス協会のサイトによると、戦後、引き揚げ者でバス乗客が増加。進駐軍から払い下げられた軍用トラックが、事業用のバスとして改造されたのがきっかけで、量産されるようになった。
 しかし、一九五〇年代以降、ワンマンバスの普及などから、トレーラーバスは次第に姿を消していった。「青春号」も、貨物用トレーラーのけん引車を改造し、特注の乗客用車両を引っ張る特注品。文字どおり、「唯一」の車両だ。
 青春号の運転に必要な「けん引二種免許」もレアな資格だ。大型トレーラーやタンクローリーなどの運転に必要なのは「けん引免許」。乗客が乗る「二種」免許は、トレーラーバスでしか活用できない。「青春号」の運転席でしか、「けん引二種」免許を生かせないことになる。
 西東京バスでは「レア免許」を持つ六人の運転士が交代で青春号を運転。運転士の一人は「子どもだけでなく大人にも人気がある。注目を浴びるので、やりがいがある」と話す。けん引二種にチャレンジしている乗客からアドバイスを求められたり、発車待ちの合間に写真を撮ってあげたりして、通常の路線バスの運行以上に乗客との距離の近さも感じているようだ。

開放的でレトロな雰囲気の客車内

 しかし、「一台しかない」ゆえに、青春号には大きな課題がある。西東京バス営業部の志賀雅史さんは「現在の仕様でのけん引車は製造していない。外装や客車は完全なオーダーメードなので部品の手配などが非常に難しい」と話す。現在走っているのは二代目だが、導入から十五年ほど経過しており、老朽化は否めない。なんとかメンテナンスして維持しているのが実情だ。
 それでも、乗客にとっては全国で唯一のバス旅を楽しめる貴重な車両。山登りの最後に温泉に立ち寄った千葉県八千代市の男性(73)も「こんなバスに乗れるとは思わなかった。孫も喜ぶと思って記念に撮影してきました」と笑顔で話す。運転士の一人は「日本に唯一の乗り物で、愛らしく感じる。大事に乗っていきたい」と、トレーラーバスをいとおしむように話していた。

青春号の終点、つるつる温泉の和風露天風呂=同温泉提供

 文・布施谷航/写真・隈崎稔樹
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