「自白」させたA刑事を「うらみません」 交流記者が見た等身大の美香さん 滋賀・呼吸器事件

2020年4月6日 12時50分

和歌山刑務所を出所した西山美香さん(左)と初対面のあいさつを交わす高田みのり記者(右から2人目) =和歌山市内で

 西山美香さんと、あるときは取材で、また別の日にはプライベートで交流を重ねた記者たちは、その人柄からも冤罪を確信した。2017年5月、大津支局から獄中の西山さんと文通し、その後半田支局(愛知県)に異動しても交流が続く高田みのり記者(27)が、女性同士の視点から等身大の西山さんを伝える。
 最初の手紙で、刑事のことを聞いた質問の答えが印象的だった。

高田みのり記者

 「Aさん(原文は実名)のことはもうどうも思っていません。両親はゆるせないと言っていますが私はうらみもしませんが怒りをとおりすぎているのです」
 20代から30代にかけて、一番楽しい時間を奪われる原因をつくった相手を恨みもしないなんてあり得るだろうか。精神鑑定で知的には子どものような側面があることが判明したことを考え合わせ、ふと美香さんには「恨む」という感情はないのかもしれない、という思いがよぎった。
 A刑事に恋してしまったのですか、という率直な質問に「恋愛という気持ちよりも私のことを理解してくれているこの人は信用できる人と思ったのです」「私をたいほしたことで出世したのです」とつづる彼女の心情が、切なくもあった。
 丁寧に書かれた文字が並び、7枚の便箋にはそれぞれ通し番号が振られていた。「手紙をくださったのは本当にうれしかったので聞きたいことあればぜんぜんえんりょせず手紙ください」。こちらを気遣う言葉もあり、申し訳なく感じたほど。初対面が待ち遠しかった。
 8月下旬、その日が来た。「高田さんですか。想像していた通りの人ですね」。出所した美香さんは、私を満面の笑みで迎えてくれた。以来、彼女の中には、しっかり者の「美香さん」と、子どものように純真な「美香ちゃん」が同居しているように感じている。
 好奇心の旺盛さは、「女の子」そのもの。支援者にもらったというメーキャップ用の筆を私の前で取り出して「使い方が分からない」とこぼしたので、教えると、その日の夜には電話で次々と質問を受けた。「化粧の手順はどうするの? ファンデーションの種類の違いは何? 化粧水はどこのブランドを使っていますか?」。取材班の記者たちに対しても、興味があることには矢継ぎ早の質問が始まる。「お子さん何歳ですか?」「名前は何ていうんですか?」「やっぱり子どもはかわいいですか?」。同僚たちも、美香さんの質問攻めにはたじたじとなる。
 その一方で繊細な気配りを見せることも。私が風邪気味だと知ると「お体大切にしてくださいね」とメッセージが届く。子どものように「またイライラしてきたよ。こんな自分嫌だ!」と甘えることもあった。メッセージには必ず絵文字やスタンプが添えられ、女子生徒同士でのやりとりをしているような感覚になる。
 無邪気で、好奇心が旺盛。相手を信じて喜怒哀楽を素直に表現し、相手の悪意をわざわざ探すようなこともしなかった。お人よしで、要望にはできるだけ応えようとする一方で、心中をうかがいすぎてしまう少し臆病なところもあった。
 刑事を「恨む」という選択肢がないのは、彼女の障害ゆえかもしれない。ただ、それは純粋無垢な子どもの心を持つ彼女の個性の一つとも思える。きっと、美香さんの心は汚れのない「子ども」なのだ。だからこそ、こんな冤罪事件に巻き込まれてしまったのだろう。人を恨んだり、裏切ったりすることのない美香さんが、その個性を生かして新たな人生を歩めることを、伴走者の一人として願っている。
(2020年4月5日朝刊特集面に掲載)

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