「かわいそう…」で終わらせないために ハンセン病問題から差別や人権を学ぶ 教員向けの授業実践本を出版

2022年4月22日 06時00分
 教育者としてハンセン病問題に向き合い、差別や人権を考える授業に取り組んできた教員らが、小学校から大学までの授業実践例などをまとめた教員向けの書籍を出版した。写真や文章など授業で活用できる資料を多数掲載し、「ハンセン病は難しそうだとためらっている先生を後押ししたい」と願う。(石原真樹)

 ハンセン病 ノルウェーの医師ハンセンが発見した「らい菌」による感染症。末梢まっしょう神経がまひし、障害が残る恐れがあるが、感染しても発症するのはまれ。1931年の旧らい予防法で強制隔離が法制化し、薬の開発により治療法が確立した後も差別や人権侵害が続いた。旧法は96年に廃止。2001年に熊本地裁判決が隔離政策を違憲と判断。回復者を対象とした補償金支給法が01年に施行され、19年には家族の補償法が施行された。

「ハンセン病回復者の家族への被害についても盛り込んだ」と話す佐久間建さん(右)と江連恭弘さん=東京都東村山市で

 タイトルは「ハンセン病問題から学び、伝える」。病気や経緯などの知識を教えるのではなく、問題を通して子どもたちが差別や人権を考えたり、回復者らの人生に自分を重ねたりできる授業が、ハンセン病問題の歴史を未来に生かすことになるとの思いを込めた。
 「知識だけでは『かわいそう』で終わってしまう。差別を受けながらも世の中を変えようと運動や文学などで闘い、力強く生きてきた回復者らの姿こそ、子どもたちに伝えたい」。編著者の一人で、東京都立病院の院内学級で教える佐久間建教諭(62)はこう話す。
 佐久間さんは1993年に国立療養所多磨全生園(東京都東村山市)の近くにある市立青葉小学校に着任。国立ハンセン病資料館(同市、当時は高松宮記念ハンセン病資料館)を訪れ、「これだけひどい人権問題を知らずにいた」と衝撃を受けた。

群馬県草津町の国立療養所栗生楽泉園で、回復者の谺雄二さん(右)と話し合うハンセン病市民学会教育部会のメンバーら=2010年12月(同教育部会提供)

 全生園で暮らす回復者らを学校に招き、直接話を聞いた授業は「子どもの反応がすごく良かった」。看護師になった教え子から「あの授業がなかったらこの仕事を選んでいなかった」と言われたこともある。
 同じく編著者の法政大第二中・高校(川崎市)の江連恭弘教諭(47)は大学時代にゼミで全生園の歴史を調べて以降、この問題を考え続けている。高校の福祉の授業で取り上げ、生徒を連れて資料館と全生園を訪れている。
 2人は2005年、回復者や研究者、市民でつくる「ハンセン病市民学会」の教育部会を発足。授業実践を報告し合い、全国の療養所で回復者らと交流を重ねてきた。その取り組みをまとめたのがこの本だ。「ハンセン病問題を『大事で、ちゃんと学びたい』と思ってもらえたら」。教育界で志を同じくする仲間を増やし、差別のない社会をつくるのが目標だ。

授業づくりQ&Aのページ。「どうして療養所で働かなければならなかったの?」との問いに関連する資料や解説が掲載されている

 本では「授業づくりQ&A」として「なぜ、隔離は続いたの?」などの質問例と解説、写真などの資料、授業展開案をまとめた。答えは載せていない。教員自身に資料と向き合って考えてほしいためだ。
 教育界の責任にもページを割き、発病した子や、親が発病した子どもたちへのいじめを教師が見て見ぬふりをし、差別に加担した例にも言及した。「コロナ禍に関連した差別や不登校、いじめに教員が関わったり傍観したりするケースがあり、今につながる問題」と江連さん。佐久間さんは「学校がハンセン病隔離政策の一部を担ったことは知っておくべきだ」と指摘する。
 清水書院刊、2530円。ハンセン病市民学会教育部会への問い合わせはメール=hansen.kyouiku@gmail.com=へ。

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