理系女性、賞で後押し「優秀な女性に光を当てたい」 工学分野の脱「重厚長大」模索

2022年4月23日 07時13分
 若手の女性研究者は、出産・育児と研究の間で悩むことも多い。勇気づけようと、文部科学省所管の国立研究開発法人・科学技術振興機構(JST)は、女性科学賞を相次いで創設している。女性比率がとくに低い工学分野では分厚い壁を破るため、大学も動きだした。

◆賞の選考、出産で休んだ期間を考慮

 JSTは二〇一九年度、輝く女性研究者賞(ジュン アシダ賞)をつくった。原則四十歳未満を対象に、業績を重視して選考する。
 一八年に逝去した国際的なファッションデザイナー、芦田淳さんが創設した「芦田基金」が、女性研究者の活躍を推進するという趣旨に賛同。基金から毎年百万円が贈られている。芦田さんの次女多恵さんは「ファッションデザインと科学は通じる点がある」と話す。
 さらにJSTは昨年度、羽ばたく女性研究者賞(マリア・スクウォドフスカ=キュリー賞)を創設した。五月に第一回受賞者を発表する。
 三十代前半の研究成果でノーベル物理学賞と化学賞を受賞したキュリー夫人の出身国ポーランドの在日大使館とつくった。将来性と国際性を重視する。最優秀賞一人に五十万円、奨励賞の二人には各二十五万円が贈られる。

「賞で勇気づけたい」と話す科学技術振興機構シニアフェローの渡辺美代子さん=東京都千代田区で


 いずれの賞も出産などで休んだ期間を考慮する。JSTの渡辺美代子シニアフェロー(66)は「休んだ人がその分成果を出せなかったと見なすようでは、優秀な人は見えてこない」と説明。「日本に女性研究者が少ないのは、ジェンダー平等の遅れがあるから。賞で勇気づけることで優秀な女性に光を当てたい」と願う。
 第三回ジュン アシダ賞を昨年度受賞した数学者の佐々田槙子・東京大准教授(37)の研究室を訪ねると、教え子二人と確率論の研究討論をしていた。佐々田さんは「四〜五時間討論することは全然ある」。

院生らと研究を議論する東大の佐々田槙子准教授=東京都目黒区の東大駒場キャンパスで

 佐々田さんは、原子や分子など微小な粒子がお互いに作用しながら動く法則から、温度や密度などの自然現象を説明する新しい理論を構築している。数学と物理学にまたがる研究成果だけでなく、ホームページ「数理女子」の開設など、数学の魅力をやさしく伝える活動も高く評価された。
 小学二年の長男(7つ)と長女(1つ)の子育て中。平日は金融機関に勤める夫(37)が保育園に通う長女を迎えに行き、夕食を作る。佐々田さんは長男の宿題を見たり長女と遊んだり。「夫婦で家事・育児を分担しないと研究は難しい」と話す。
 研究に没頭する時間が少ないのが悩みだが「ジュン アシダ賞受賞が励みになっている」。「数学はサイコロと天気予報の似ているところを見つけて定義にするなど、新しい概念をつくれるところが好き。研究を楽しみ、数学の楽しさをワークショップなどで伝えていきたい」と抱負を語る。

◆女子大に工学部「起爆剤になれば」

お茶の水女子大学の新井由紀夫副学長=東京都文京区大塚で

 経済協力開発機構(OECD)の調査によると、日本は一九年、大学などの高等教育機関に入学した学生のうち、工学分野に占める女性の割合が16%と比較可能な加盟国三十六カ国中最低だった。本年度、奈良女子大に、女子大としては日本初の工学部が誕生した。
 国立のもう一つの女子大、お茶の水女子大も二四年度、工学と人文学・社会科学を融合させた共創(きょうそう)工学部(仮称、入学定員四十六人)の開設を目指す。社会課題の解決策を示すデータサイエンティストや、男女の性差に着目した技術開発に挑むエンジニアなどを育成する。新井由紀夫副学長(62)は「工学系の女子の割合を改善する社会の起爆剤になれば」と期待する。

芝浦工大の新井剛アドミッションセンター長=東京都江東区の芝浦工大豊洲キャンパスで

 芝浦工業大は本年度入学者から、一般入試の成績優秀な女子学生に入学金相当(二十八万円)の奨学金の給付を始める。初年度は約八十人を見込む。学部の女子学生比率は19%だが、創立百周年の二七年に30%以上が目標。アドミッションセンター長の新井剛教授(49)は「理工学分野は、重厚長大の昔と違う。スマートフォンや電気自動車(EV)など、繊細な感性を必要としている。女性がジェンダーバイアス(男女の役割に関する固定観念)ではじかれているのが日本の一番いけないところだ」と話す。
 東京新聞では、より良い未来を模索する動きを取材しながら議論するチームをつくりました。国連のSDGs(持続可能な開発目標)を鍵にして、さまざまな課題を考えています。

◆今月の鍵

 今月の鍵は「目標5 ジェンダー平等を実現しよう」「目標9 産業と技術革新の基盤をつくろう」です。どんな領域でも、性別にかかわりなく一人一人の可能性が阻まれることのない社会にしていくことが、未来を創る第一歩になると思います。
 文・増井のぞみ/写真・坂本亜由理、由木直子、松崎浩一、安江実

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