ALSと共に生きる 30年間「ニャンちゅう」演じ続ける 津久井教生(つくい・きょうせい)さん(声優)

2022年4月23日 13時03分

スタジオで収録する津久井教生さん(本人提供)

 最も印象に残る声優や、声優が活躍するアニメ作品などに贈られる「声優アワード」。この三月に発表された第十六回同アワードのキッズ・ファミリー賞に、NHKの教育番組でおなじみのパペット人形「ニャンちゅう」をはじめ、数々のキャラクターを演じてきた津久井教生(つくいきょうせい)さん(61)が選ばれた。約二年半前に難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」と診断され、徐々に動かなくなる体と闘いながら、キャラクターに命を吹き込み続けている。
 三月五日の受賞発表から約三週間後。パソコン画面を通じて取材した日の前日は津久井さんの誕生日だった。受賞と合わせてお祝いを述べると、「あ〜ら、ありがとう!」。記者が大好きな「ニャンちゅう」独特のだみ声が画面越しに響いた。
 キッズ・ファミリー賞は子どもたちの視点で選ばれる賞。視聴者の思いが詰まった賞だけに、「今までのご褒美だ」と喜びつつ、「この後、悪いことができなくなりますね〜。この『くそじじい!』と言われるような『愛すべきじじい』の役をやりたかったのに」とぼやいてみせた。

毎週日曜午前7時(再放送午後5時)に放送中のEテレ「ニャンちゅう!宇宙!放送チュー!」のニャンちゅう=NHK提供

 高校時代に友人が制作したアニメで声を担当したことがきっかけで、声優の世界へ。一九八三年のアニメ『太陽の子エステバン』でデビュー。これまでの代表キャラは一九九二年から、NHK教育テレビで、番組が代替わりしながらも登場し続けている「地球生まれのネコ」ニャンちゅう。三十年間で延べ十二人の「おねえさん」と、番組を軽快に進行してきた。
 ほかに『それいけ!アンパンマン』(春菊さん役ほか)や『ちびまる子ちゃん』(関口しんじ役ほか)にも三十年以上にわたって出演。巧みな発声技術と表現力から、声優界きっての超早口のキャラクターや、戦隊シリーズの個性豊かな怪人役など、インパクトの強い役柄も多い。「声優は声師なんですよ。そのキャラクターをいかに存在させるかが勝負ですね」
 一方で、舞台俳優や朗読劇の読み手も務め、自分自身を役柄に近づけたり、聴衆を声で物語の世界に誘ったりすることで表現の幅を広げてきた。歌手や声優養成学校の講師も任され、手帳は予定で真っ黒。そんな多忙極める二〇一九年三月、凹凸も何もない道で派手にころんだ。「いったい今のは何だ?」。脚がなくなる感覚に、身体の異変に気付いた。
 それから数週間で脚が上がりにくくなった。半年後、走れなくなり、腕にも異常が現れたころ、ようやくALSと判明した。“名無しの権兵衛病”の正体が分かり、「ショックよりもほっとした気持ちの方が強かった」。
 ALSは手足やのどなど全身の筋肉がやせていき、やがて自力で呼吸ができなくなり、死に至るとされる。治療法はない指定難病だ。症状の進行は人それぞれ異なり、津久井さんは自分の病状や介護生活をネットで発信している。
 「お会いしたらびっくりするかもしれないけど、手と足は全く動かないんですよ」。津久井さんは表情豊かで、間に冗談を挟んで笑いを取りつつ、二時間近く取材に応じてくれた。画面越しでは胸元から下は見えないため意外な気持ちになる。でも、いすに座るにはヘルパーが二人がかりでベッドから移さなければならないし、原稿は口にくわえた割り箸でキーボードを打って執筆しているという。
 そうした中で、声だけは奇跡的に出すことができている。肺活量は三年前の四千八百ミリリットルから半減。「ニャンちゅうの声はギリギリのところ」と話すが、車いすで座ったまま発声している今も、スタジオでレギュラーアニメの収録を行い、声優養成学校の授業をリモートでこなしている。「ボイストレーナーとしての知識と、これまでの鍛錬があったから奇跡が起こっている」
 できなくなることに絶望する。でも、折り合いを付けてきた。「死にたいと思ったことは一回もない。気分を楽にするために『死にてーよー』って叫んだことはありますよ。でも、本当に思ったことはない。さーて、どうやって工夫してきて生きてやろうかって」 (飯田樹与)

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