再出発、携帯電話を手に 出所者や生活困窮者の就労助けるレンタルサービス

2020年3月31日 11時36分

リスタートのレンタル携帯を手に、更生を誓う男性

 日常生活を送る上で必要不可欠な携帯電話。だが、料金を未納のまま放置したりすると携帯電話を新たに契約できない場合があり、出所者や生活困窮者の就労の「高い壁」になってきた。再出発を支えようと「レンタル携帯」として貸し出す支援の枠組みが始まっている。 (木原育子、中村真暁)

◆追い詰められ窃盗 携帯代未納は10万円超

 「再犯しないように誓っても、携帯電話がないと当たり前の生活は手に入れられなかった」。埼玉県内で暮らす斉藤圭介さん(35)=仮名=がつぶやいた。
 斉藤さんは、複雑な家庭環境で育った。実父は分からず、物心ついた時は義理の父に引き取られ、その後、義理の母や血縁関係のない兄姉らと暮らした。中学生になると、盗みを繰り返すようになり、高校1年で中退。悪友との関係は断ち切れず、成人式は少年院の中で迎えた。
 出所後、建設現場で働き始めた。だが、8年ほどたった30歳のころ、会社の給料の未払いが続くように。「友人の会社だったことや、こんな俺を雇ってくれたとの恩義もあって、給料の未払いを強く訴えられなかった」。携帯料金も払えず、未納は10万円を超えていた。
 追い詰められた斉藤さんは会社の同僚とともに、一線を再び越えることになった。2016年のある日、一般住宅に盗みに入り、住居侵入と窃盗容疑で逮捕。実刑判決を受けた。

◆「ブラックリスト」入り 就職も阻まれ

 3年半後の昨秋、金沢刑務所を出所し、足立区の更生保護施設に入所した。「今度こそ、当たり前の生活がしたい」。再起を誓ったが、問題が浮上した。長年、携帯料金が未納状態だったため、携帯電話会社の「ブラックリスト」となり、新たに契約できなくなっていた。就労に向けた面接では連絡先を求められることが多く、携帯が契約できないと、就職先も限られてしまう。

リスタートの冊子

 悩みを聞いた施設職員が斉藤さんに紹介したのが、一般社団法人リスタート(東京都豊島区)だ。事情があって契約できない人に、安価で貸し出す。斉藤さんは「本当にありがたかった。ほっとしました」と振り返る。

◆「携帯は自由の象徴」刑務所で実感

 これまで斉藤さんのようなケースの場合、コンビニなどでプリペイド式携帯電話を購入する人が多かったという。ただ、特殊詐欺など犯罪に使われることも多く、携帯電話会社が販売を縮小していった経緯がある。契約時の本人確認や審査も厳格になっている。
 「刑務所では、決められた時間の範囲内でテレビを見る自由は許されていたが、調べたいことが出てきてもスマートフォンは使えない。辞書や書籍を買って調べていた。携帯を使うことは、自由の象徴だと思っていた」と斉藤さん。携帯電話と建設現場の仕事を得て、新たな道を歩んでいる。「もう一度チャンスを与えてくれた人たちのためにも、犯罪と無縁の生活を送っていきたい」

◆生活保護 中古携帯も買えない

 「今の世の中、携帯がないと生活できない」。昨年、生活保護の利用を始めた江戸川区の男性(65)は言う。年金と保護費を合わせた額から、同区から紹介された施設の料金や食費が引かれ、自由に使えるのは月3万円未満だ。

携帯電話を手に入れ、就労先も家も契約できた男性

 少しでも生活費を確保したくて、施設を出ようと不動産業者を当たった。約50社に就職活動をしたが、携帯を持っていないせいで「信用保証ができない」などと断られた。携帯電話は中古でも1台2万円以上するため買えず、生活保護利用のためか、分割払いの契約もできなかった。
 困っていたときに知ったのがリスタートだ。住まいを確保し、警備の仕事に就けた。3月からは生活保護を利用せずに生活できるようになったという。

◆「携帯なくて働けない」を減らしたい

冊子には、生活困窮者や出所者たちの経験などがつづられている

 リスタートのレンタルは6月から始まり、口コミなどで広まった。月4980円(税込み)の利用料で、かけ放題やネット利用ができるサービスを提供する。利用者は現在、500人近く。リスタートが携帯電話を契約した人に聞いたアンケートでは、回答者146人のうち、就職が決まったのは3割、家を契約できたのは2割に上ったという。
 免許証や年金手帳などで本人確認し、特殊詐欺に利用されていないかなども独自にチェック。一度でも滞納したら契約を打ち切る約束で、最終的には滞納状態を解消し、自身で契約できるようになるように後押しする。
 利用者の大半は自治体や支援団体から紹介された人だ。リスタートは現在、首都圏を中心に、市区町村の就労支援窓口や生活福祉課など60カ所以上と連携している。東京都は、生活保護世帯に就労支援費用として、プリペイド携帯の費用を上限2万円で支給してきたが、「レンタル携帯も相談があれば対応を考えたい」(保護課)とする。
 リスタート代表理事の高橋翼さん(34)は、携帯のレンタル会社を営む中、料金滞納などで「ブラックリスト」に載り、苦しむ人を多く見てきた。「携帯がないから働けない人を減らし、生活保護から脱却する人を増やしたい」と語る。

リスタート代表理事の高橋翼さん

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