「海には字が書いてある」。不思議な表現だが、作家の立松和平…

2022年4月25日 07時04分
 「海には字が書いてある」。不思議な表現だが、作家の立松和平さんが北海道・知床半島のベテラン漁師さんから聞いた言葉だと書いていた▼天候が変わりやすく、波の高い知床の海は船を出すかどうかの判断は難しい。海を見つめ、風や潮がどんな字やメッセージを出しているかを読み解く。そこから荒れ具合を予想し、決断の材料にする。そんな意味だろう▼出港した土曜午前の知床の海にはどんな文字が書いてあったか。北海道斜里町の知床半島西側のオホーツク海で観光船が行方不明になった事故である。子ども二人を含む乗客乗員二十六人の安否が気遣われていたが、昨日、複数の方の死亡が確認された。無念である▼乙女の涙、男の涙。いずれも現場近くの滝の愛称だそうだ。岸壁からいきおいよく落ちる滝や、奇岩が織りなす雄大な風景に加えて野生のヒグマを沖合から見せることで観光船は人気だったと聞く▼当日は強風注意報と波浪注意報が出ており、地元漁船が港に引き返すほどだったというから、その日の海にはやはり「大丈夫」という字は浮かんでいなかったか。岩礁の多い海域で荒れた日に船を出せば危険は大きい▼ようやく訪れた知床の春に世界遺産を楽しむ人々を巻き込んだ海難事故が痛ましい。目には見えずとも、海にはいつだって「要注意」の字が大きく書かれていることをあらためてかみしめる。

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