森鴎外ゆかりの上野の老舗旅館、閉館へ 新型コロナでキャンセル相次ぐ

2020年3月28日 07時00分

閉館する「水月ホテル鴎外荘」中庭にある森鴎外の旧邸=東京都台東区

 文豪・森鴎外(1862~1922年)ゆかりの東京・上野の旅館「水月ホテル鴎外荘」(台東区)が、新型コロナウイルスの影響で五月末で閉館することが分かった。鴎外の旧邸が敷地内にある老舗は宿泊などのキャンセルが相次ぎ、約80年の歴史に幕を引く。おかみとして切り盛りしてきた中村みさ子さん(62)は「旧邸を守るのが私たちの使命。会社の体力があるうちに」と、決断の理由を語る。 (天田優里)
 樹齢300年のカヤやクロガネモチに囲まれた旧邸は、築約130年の純和風の木造。20代後半の鴎外が最初の妻登志子と新婚時代を過ごし、「舞姫」「うたかたの記」「於母影」などを執筆した。宴席などで利用される和室「舞姫の間」は明治の風情。客がまばらな庭に桜の花びらが舞う中、みさ子さんは「今が見ごろなんですけどね…」。

森鴎外旧邸で思い出を話すおかみの中村みさ子さん。左奥は「舞姫の間」

 旅館は43年、旧邸の隣に、前身の「水月旅館」として創業。3年後、売りに出されていた旧邸を保存するため創業者が購入し、現在の名前に改めた。都内第1号と認定された天然温泉は今も人気だ。
 みさ子さんは、夫で支配人だった菊吉さん(71)が4代目社長に就任した98年、おかみとして働き始めた。「鴎外の知識が全くなく、お客さまの方が詳しかった」。専門家に教えを請い、解説できるほどになった。
 「地域で一番のおもてなしをする」をモットーに接客してきた。その心遣いが評判で常連客が多かった。東日本大震災後の不況も乗り切ったが、新型コロナで売り上げは前年の約1割に。今月中旬、菊吉さんが「これ以上経費がかさむと、倒産して旧邸を守れなくなる」と、5月31日での閉館を決めた。
 旧邸をこのまま敷地内で保存するか、別の場所に移築するかは未定という。閉館の知らせは会員制交流サイト(SNS)や口コミで広がり、ネットには「コロナが原因…悲しすぎる」「お別れを言いに泊まりに行きたい」など惜しむ声があふれる。
 「鴎外荘がこんなに愛されてきたんだと日に日に感じており、ありがたい」とみさ子さん。営業は残り2カ月。都の外出自粛要請に複雑な心境だが、「私たちの集大成。支えてくださったお客さまにお礼と感謝を伝えたい」と緑が茂る旧邸を見つめ、ほほ笑んだ。
 ◆本紙で「バリアフリー温泉」を連載する温泉エッセイスト山崎まゆみさん(49)の話
 数日前におかみさんから閉館を知らされた。近くに住んでおり、温泉に入りによく通った。空襲でも焼けずに残った旧邸や天然温泉は貴重で、都内では唯一無二の存在。古き良き日本の旅館文化を継承していたので、残念です。

中庭にある森鴎外旧邸

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