プーチン大統領は「戦国武将」? 顧客は「生娘」? 人はなぜ例え話をしたがり、そして失敗するのか

2022年4月26日 12時00分
 ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、安倍晋三元首相が講演した際、各国から非難を浴びるプーチン大統領をこう例えた。「力の信奉者。戦国武将みたいなもの」。正直なところ、いまひとつピンとこない比喩だ。ただ、例え話は難しい。失言と見なされ、地位を追われることもある。吉野家幹部の「生娘シャブ漬け」発言もそうだ。にもかかわらず、人は例えたがり、時に失敗もする。それはなぜか、探ってみた。(木原育子、山田祐一郎)

◆ピントのズレ具合に違和感

 「安倍さん、それって自分のことやん。『力の信奉者』って、あんたが言うなよ」。25日、JR新橋駅周辺。ランチ帰りという大阪弁の女性(52)がツッコミを入れた。「首相の時も安保法制をごり押ししたり、聞く耳なんて全く持たんかった」と首をひねった。

JR岐阜駅前の織田信長像

 発言が飛び出したのは、21日に東京都内で開かれた夕刊フジ主催のシンポジウム。プーチン氏を「非常に合理主義者で、基本的には力の信奉者」と表現。「言ってみれば戦国時代の武将みたいなもの」と続け、「例えば織田信長に人権を守れと言っても全然通用しないのと同じ」と語った。
 ウクライナで多数の命が犠牲になる今、戦国時代に織田信長。ピントのズレに違和感を抱く人は多い。
 「戦争を知らない政治家の言うことだ」。ぽつりとつぶやいたのは、駅前で靴磨きを50年以上続ける中村幸子さん(90)。
 浜松市出身の中村さんは戦争末期、海辺に近い高台から艦砲射撃を目撃したという。「船同士がボンボンボンって撃ち合ってけんかしていた。弾が人に当たると、人間が一瞬パンって跳ねて動かなくなる。モノ同然。忘れたことはない」。そしてウクライナを憂い「あの光景は昭和20年の日本にとても似ている」と言葉に詰まった。

◆「元首相として極めてお恥ずかしい発言」

 半世紀もの間、新橋の地べたに座って得た鉄則は「偉い人ほど頭が低い」ということ。「戦争をする人は正反対で、が高い。日本の政治家も偉そうなことを言う」。例え以前の問題と言葉の軽さに閉口した。

首相官邸で記者の質問に答える安倍晋三元首相=2021年11月

 営業職の男性(55)もそう。「早く落としどころをつけ、戦争終結に尽力するのが政治家の使命。400年以上前の話を持ち出す場合ではなく、元首相としてできることを」と訴える。
 歴史好きという飲食店経営者の男性(50)は「『人権』って概念は近代以降で、おかしな話。『織田信長に人権』って、そりゃ通用しないでしょうよ。元首相として極めてお恥ずかしい発言」と切り捨てた。
 そもそも織田信長は評価自体が分かれる人物だ。時には「上司にしたい偉人ナンバーワン」に君臨する。
 信長を愛してやまないNPO法人「安土城再建を夢見る会」(滋賀県近江八幡市)理事長の尾﨑信一郎さん(66)も「戦争のない状態から戦争を仕掛けたプーチンと一緒にしないでいただきたい。食うか食われるかの時代の信長を持ち出すなんてムカッとする」とビシッとひと言。「もう少し勉強していただきたい」と安倍氏の歴史認識をただした。
 「信長ほど評価が変わった人は珍しい。安倍さんが言うような信長像はもはや古い」。そう話すのは歴史学者の渡辺大門さんだ。
 信長が朝廷への奉仕を怠らなかったことから勤王家と戦前は評されたが「その戦前を覆すために、戦後は天皇を脅かすほど熾烈しれつな性格の部分だけが異様に強調されるようになった。最近の研究で改められた面も多い。歴史上の人物との比較は時代も違うし、安易に捉えると間違えてしまう」。
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