労災認定、副業時間を合算 過労死歯止め策置き去り

2019年12月24日 02時00分
 厚生労働省の労働政策審議会の部会は二十三日、労災保険制度の見直し案で合意した。長時間労働に起因する労災の認定基準について、副業など複数の勤め先の労働時間を合算する仕組みに改める。これまでは合算は認められず、掛け持ちで過労死の認定基準(発症前一カ月の残業時間が百時間超)を上回る長時間労働をした人でも労災認定されない事態が起きていた。 (編集委員・久原穏)
 今回の見直しで雇用のセーフティーネット(安全網)が強化されたといえるが、根本的課題が解決されず残っている。それは労災を未然に防ぐため副業を含めた労働時間を誰がどうやって把握、管理するかのルールづくりだ。本来なら本業や副業の勤め先がそれぞれ別の就業先の労働時間を把握し、全て合算して過重労働とならないよう健康確保に努める。労働基準法(三八条)はそう定めている。
 しかし政府は副業推進の旗を振るものの、この労働時間管理の問題は置き去りにしたままだ。厚労省の検討会は「複数職場の労働時間は合算せずに事業主ごとに残業時間の上限規制を適用する」との選択肢を示したが、労政審の部会はいまだに議論を始めていない。
 このまま事業主ごとに残業時間の上限規制を適用することになれば、例えば二つの職場の合計で過労死ラインを超える長時間労働をさせることも違法でなくなる。このような状況で政府が副業を勧めれば、複数職場での過重労働による過労死という「合算死」が増加しかねない。
 日本労働弁護団は「労働時間を合算しなければ、企業にとって割増賃金の負担が減り、それは長時間労働の歯止めが弱くなることを意味する」と声明で強い危機感を示した。
 そもそも政府が描く副業の姿と実態があまりに乖離(かいり)しているのが問題だ。政府は副業の利点として「雇用の複線化を通じ人材育成効果や企業のイノベーションにつながる」と強調した。
 しかし総務省の調べでは、副業を持つ人の三分の二は「本業の所得が二百九十九万円以下」で生計のために仕事を掛け持つ人たちだ。さらに今回の労災認定の見直し案はフリーランス(個人事業主)など、企業に雇用されていない人には適用されない。こうした働き方をする人は増えており、認定対象の拡大を求める声も出ている。労災認定の制度を出発点から見直さない限り、働く人の不幸は後を絶たない恐れがある。

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