藤原帰一氏「力による抑止は限界を示した」 ウクライナ侵攻のいま「平和主義の外交」訴え

2022年4月28日 06時00分
憲法の平和主義に基づく外交努力の重要性を説く藤原帰一氏=東京都文京区の東京大学で

憲法の平和主義に基づく外交努力の重要性を説く藤原帰一氏=東京都文京区の東京大学で

 自民党が保有を提言した敵基地攻撃能力について、戦争と平和を長年研究してきた国際政治学者の藤原帰一氏(65)は本紙の取材に「憲法の平和主義の理念を逸脱する」と指摘する。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、中国などの脅威を念頭に政府・自民党内では防衛力の強化を求める声が強まっているが、武力で平和を保てるのか。藤原氏に聞いた。(聞き手・佐藤裕介)
 ―ロシアによるウクライナ侵攻が起きた。
 「欧米はロシアにさまざまな抑止戦略をとってきたが失敗した。『力による抑止』の限界を示したとも言える。冷戦後、西側諸国の力をベースに秩序がつくられた。それは、ロシアが『負け組』になること。『負け組』には自分たちの勢力やプライドを回復するための政治勢力が生まれる。ロシアを含む国際秩序の構築に失敗したということが戦争の原因の一つだ」
 ―自民党提言では敵基地攻撃の対象に相手国の指揮統制機能が追加された。政府・自民党内には、米国との核共有の検討を主張する声もある。
 「敵基地攻撃能力は専守防衛の原則から考えれば、憲法で認められた自衛隊の行動を超える。攻撃対象の拡大は抑止の拡大ではない。逆に国際的な緊張を加速させることで軍事行動の誘因となり、抑止の破綻を導く可能性を高めかねない。米国が海上で装備している核ミサイルを、例えば地上配備の核ミサイルに変えることが核共有なら、愚かな決定だと思う。攻撃される機会を増やすだけだから」
 「改憲とか核共有などの議論には軍事力を強化すれば中国を抑制できるとの期待があるのだろうが、『力の論理』だけでは破綻してしまう」

◆中国もロシアへの制裁をみた

 ―日本は中国とどう向き合えばいいのか。
 「台湾有事という言葉があるが、中国が台湾を攻めた場合、国際決済システム『国際銀行間通信協会(SWIFT=スイフト)』から排除され、在外資産を凍結されるだろう。中国はウクライナ侵攻に対するロシアへの制裁をみて、台湾に侵攻すればどのような制裁を科されるのか知ったはずだ。それなら、中国に国際社会に協力した方がいいと理解させ、日本が中国と協力する準備があることを示さないといけない。必要なのは外交努力だ」
 ―憲法が掲げる平和主義・国際主義が基本になる。
 「憲法前文がうたう平和主義と国際主義は明らかに『力の論理』とは違う。そして、専制支配を認めないという重要な条件が入っている。憲法の国際主義と平和主義に基づく外交が必要になる」
 「ウクライナ侵略に関する日本の議論で、市民の安全とか民主主義という言葉があまり聞かれないのはちょっと残念。憲法の考え方からすれば、ロシアのような専制主義政権による戦争を否定しながらも、その国民のことは排除せず、国際秩序を考えるということ。これこそがわれわれの原則であるはずだ。そして、この理念は日本だけのものではない」

ふじわら・きいち 1956年生まれ。東京都出身。専攻は国際政治。東京大学教授だったが、今年3月に定年退職し、現在は東京大学未来ビジョン研究センター客員教授。著書は「戦争を記憶する」「平和のリアリズム」など。

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