「ソケリッサ!」オレたち元ホームレス 路上で輝く 身一つの表現。コロナ禍だからこそ見て

2022年4月28日 07時02分

上野公園でパフォーマンスを披露するダンス集団「新人Hソケリッサ!」。後方は東京国立博物館=いずれも台東区で

 路上生活者やその経験者らのダンス集団「新人Hソケリッサ!」が、都内や横浜市で屋外ライブツアーを始めた。活動歴は十五年以上に及び、支援活動ではなく芸術として評価を受けている。ソケリッサを立ち上げ、演出も手掛けるダンサーのアオキ裕キさん(53)は語る。「コロナ禍の今だからこそ、見てほしい」−。

演出のアオキ裕キさん

 何かをつかむように空に手を伸ばす。地面に倒れ込んで転がる。ダンサーらしからぬ腹が突き出た人もいれば、長いひげをたくわえた男性も。上野公園の噴水前の広場で二十六日夕、ソケリッサのメンバー八人がダンスを披露していた。
 アオキさん以外の七人は三十代から七十代で、全員が路上生活の経験者。うち一人は今もネットカフェなどで寝泊まりしている。上野公園での公演は、昨秋に始めたツアーの三回目。百人近い人たちが集まり、パフォーマンスに拍手を送った。
 発足のきっかけは二〇〇五年。ダンサーとして活動していたアオキさんは「表面的な格好良さや流行を追っていていいのか」と模索していた。新宿で路上ライブをして歌う若者の脇で、尻を半分出して寝ているホームレスの男性を見かけた。「あの身体にどんな歴史があり、どんな踊りが出てくるのか。そこから生まれる表現は面白いはずだ」と確信した。
 ホームレスに声をかけては誘い、断られることが一年近く続いたが、困窮者の自立を支援する雑誌「ビッグイシュー」がアオキさんに販売員のホームレスらを紹介。アオキさんが実際に踊ってみせると、五人が参加を決めてくれた。
 グループ名の「ソケリッサ!」は「それ行け!」という意味をイメージした造語。メンバーは入れ替わりながら、これまで五十人ほどが参加してきた。仕事に就いてやめる人も、急に現れなくなる人も。やめて八年ぶりに戻った人もいる。
 「型にはめたくない」と振り付けは決めず、言葉やテーマに沿った踊りを自由に考えてもらう。独特の動きや存在感が評価され、各地の芸術祭に参加。権威あるダンスのイベントにも招待されている。
 メンバーの平川収一郎さん(52)は、十五歳の時に家出。住み込みでパチンコ店などで働いたが「どこも長続きせず、向いている仕事も分からない。どうでもよくなった」と三十三歳で大阪・西成で路上生活に。長年、住み込みの仕事と路上生活を繰り返してきた。
 現在は港区の路上で「ビッグイシュー」を販売しているが、通行人の冷たい視線も感じる。「でも、ソケリッサで踊る時は温かい目で見られる。みんな見た目はあれだけど、いい人ばかりで家族みたい」と笑顔を見せる。
 「いろいろなことから逃げてきた」と振り返る小磯松美さん(73)は、仕事や結婚生活がうまくいかず、六十歳ぐらいで新宿で路上生活を経験。「何もかも捨てて残ったのは身一つ。それを使い切ってやろう」とダンスに臨んでいる。
 アオキさんは、路上生活者を「集団から切り離された身一つで毎日生きることに向き合い、ある意味で強靱(きょうじん)。守られた環境で私たちが失った何かをきっと持っている」と評し、こう考えている。「コロナ禍の今、不安で身を縮ませているような雰囲気を感じる。こんな時、路上生活者の身体から出てくるダンスは見る価値があるんじゃないか」
     ◇
 屋外ライブツアーは不定期開催。今年末までに数回を予定。数日前にソケリッサのホームページなどで告知する。
 文・宮本隆康/写真・松崎浩一
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