アジア系ヘイト アートで憎しみを少しでも変えたい 米ニューヨークで美術展

2022年4月28日 18時00分

21日、米ニューヨークで、リーさんが残したたばこのデザイン画を前に反アジア系ヘイト美術展について語るクラインさん

 アジア系住民への憎悪犯罪(ヘイトクライム)に揺れる米ニューヨーク市で今月、小さな美術展が始まった。2カ月前に突然の暴力で命を落とした韓国系の女性を悼み、アジア系作家の作品を並べた展示だ。「芸術に犯罪を直接減らすことはできない。でも、誰かの憎しみを変える助けになれば」。携わった人々は女性への思いを胸に、ヘイトのない社会を願う。(ニューヨーク・杉藤貴浩、写真も)

米国のアジア系憎悪犯罪 トランプ前大統領が新型コロナを「中国ウイルス」と呼んだ影響などで偏見が拡大。ニューヨーク市内では昨年のアジア系への憎悪犯罪は131件と、前年の?件から5倍近くに増えた。昨年3月にはジョージア州でアジア系女性6人が射殺されるなど全米でも増加傾向で、被害は高齢者や女性に多い。バイデン政権は情報収集を強化するヘイト防止法を成立させた。


2月の事件で亡くなったリーさん=クラインさん提供

 市中心部マンハッタンにある奥行き十数メートルの細長い画廊。真っ白な壁に、2カ月前に亡くなったクリスティーナ・ユナ・リーさん=当時(35)=が残した作品が掛かっていた。中国製たばこのパッケージを模した小さなデザイン画だ。
 「事業を拡大した時の決意で僕が禁煙したのを記念して彼女がつくってくれたものだよ」。画廊のオーナー、イーライ・クラインさん(43)が教えてくれた。「彼女は8年ほど前まで、ここで働いていた。賢くてタフな人で、何度も一緒に海外出張もした。この展示で彼女の人生をたたえたい」

アジア系女性作家の作品を集めたファンさん

 事件は2月13日、市内のチャイナタウンで起きた。画廊を巣立ち、デジタル音楽の分野で活躍していたリーさんは、帰宅時にアパートに侵入した面識のない男に刃物で殺害された。詳しい動機は今後の裁判で追及されるが、事件は新型コロナウイルス禍で広がるヘイトに悩む米国のアジア系社会に強い衝撃を与えた。
 「現場は私の家から数百メートルだった。自分が憎悪の標的にされているようで、1人でアパートにいられなくなった」。美術展の作品を集めた中国系女性作家ステファニー・メイ・ファンさん(27)はそう話す。亡くなったリーさんと面識はなかったが、交流サイト(SNS)でつながっていたクラインさんからの展示の協力依頼に応じた。「この悲劇に対して何かをしなければ、自分も前に進めないと思ったから」

ヘイトクライムを報じる新聞紙で銃をかたどった作品

 集めたのは、ヘイトクライムを報じた新聞紙で銃をかたどった作品や、ベトナム戦争時の米軍の映像に映り込んだ現地女性を肖像画風に切り抜いた写真など約20点。リーさんとファンさんを含むアジア系女性作家9人の手によるもので、反暴力のメッセージや米国社会で顧みられることの少なかったアジア系へのまなざしに満ちた内容だ。

米軍が撮影した映像から切り抜かれたベトナム女性の肖像作品

 「文化は互いの違いを乗り越える一助になる。きっとリーさんもここにいて、わくわくしているだろう」とクラインさん。美術展は6月まで。収益の半分以上は、リーさんの遺族が暴力撲滅や女性支援のために設立した基金に寄付する。

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