泉 麻人【東京深聞】正しき町のオムライス 純喫茶『シャレード』(葛飾区・金町) ~ぐるり東京 町喫茶さんぽ~

2022年5月6日 00時00分
 

「泉麻人 絶対責任編集  東京深聞とうきょうしんぶん」がリニューアル!泉麻人さんとイラストレーターのなかむらるみさんが、東京の喫茶店をめぐる街さんぽエッセイ。さんぽ途中で町の喫茶店を訪れ、店の生い立ちなどをマスターに深く聞きます。今までの「東京近郊気まぐれ電鉄」もバックナンバーとしてお読みいただけます。

正しき町のオムライス 純喫茶シャレード

 常磐線が江戸川を渡る手前に金町という駅がある。かなは“お金”の方をまず連想するが、これは昔の水戸街道が曲尺かねじゃくのように曲がっていたことから、曲に金の字をあてた……という一説がある。
 地名の由来はともかく、ここは23区東端の葛飾区を代表する町の1つ。前の用事の都合で小岩からバスに乗って柴又街道を北上、金町浄水場の横でバスを降りて、金町駅の南口の方へ向かって歩き始めた。駅のこちら側はこれまでほとんど歩いたことがなかったが、ハナミズキの街路樹が目につく。新しい感じの住宅がマス目の区画に広がっている。
 駅の南口に「金町餃子」の看板を出した店があったが、有名な亀戸餃子のせいもあってか、こういう東京東部の下町地名というのは餃子との相性がいい。ガードをくぐって北口へ出ると、正面に見えるのは東急ストア。

JR金町駅北口のロータリー

駅前団地の入り口にもう随分前から存在する店だが、東横線や田園都市線のイメージが強い東急ストアをここで見ると、いつも不思議な気分になる。
 北口の東寄りの一角には「田園」という、古めかしい窓飾りが目につく喫茶店があるけれど、訪ねようと思っているのは、繁華街をもう少し奥に入った所の「シャレード」という店。“純喫茶”というそそられる冠がシャレードの前にしっかり付いている。角地の4階建の建物だが、2階の側壁に並ぶワッペン型というか、逆カマボコ型といおうか、若干アールデコセンスの窓が素敵だ。ネットの情報にも「喫煙可」と出ていたが、そのとおり、ドアを開けるや否や昔の喫茶店らしい、なつかしいタバコのニオイがムワッと鼻についた。
 導かれたテーブルには麻雀ゲームがセットされていて、傍らの棚には「進撃の巨人」他のコミックスがずらりと並び、通路の高い所にあるテレビでは昼下りのワイドショー(ミヤネ屋)をやっている。うーん、これぞ町喫茶の見本のような店だ。

<上>昔ながらの雰囲気が残された店内<下>麻雀ゲームがあるテーブルにて

 書くのが後になってしまったが、玄関の脇には昭和中期調のショーケースが備えつけられていて、各種ドリンクや軽食類のサンプル模型が飾られていたが、メニューを見るとこの店はオムライスやスパゲッティーなどの食事が充実しているようだ。とくにオムライスとナポリタンの上にはわざわざ“シャレード特製”と銘打たれている。この2品を注文し、僕はミルクセーキ、なかむら画伯はソーダ水をドリンクに選んだ。

<上>シャレード特製ナポリタン(830円)<下>シャレード特製オムライス(830円)

 メニューには、ただ「ソーダ水」と書かれていたが、おそらく色は緑か赤だろう。推理しながら待っていると、緑色のメロンソーダが運ばれてきたが、リクエストをすればイチゴ味の赤色のも作るらしい。そして、オムライスとナポリタンは予想以上にウマかった。どちらも近頃あまり見掛けなくなった銀色のステンレス皿に盛りつけられて、オムライスの玉子皮の焼きかげん、ケチャップのらし具合、やや濃い目のケチャップライス、ナポリタンのハム、ピーマン、グリーンピース、タマネギの配分など申し分ない。よくできた町の洋食屋の味だ。

<左>ソーダ水(460円)<右>ミルクセーキ(600円)

 それらを1人で作るのは厨房にいる80代のマスター、注文を取って運ぶのは御夫人。いわゆる老夫婦2人でまかなうこの店、オープンは昭和43年(1968年)というから先日の錦糸町のマウンテンと同じく半世紀を超えている。また、この年は隣町の柴又が舞台の寅さん(男はつらいよ)がテレビドラマとして始まった年でもある。
 さて、「シャレード」という店名、僕は年代的にオードリー・ヘップバーンの映画<日本公開は昭和38年(1963年)>を思い浮かべたのだが、それを伝えるとマスター、すぐにニンマリしたから、意識していたことは確かだろう。
 そう、途中で入ってきた高校生くらいの男子4人組が皆、プリン・ア・ラ・モードらしきものを満足そうに味わっていたが、ここは僕が子供時代にハマッたクラシックなスイーツ類も評判がいいようだ。ファミレスなどない時代の町の「不二家」のような存在だったのかもしれない。

今回訪れた喫茶店

シャレード
住所 東京都葛飾区東金町1-43-8
営業時間 10:00~18:00
定休日 月曜日
※新型コロナウィルスの影響で、掲載したお店や施設の臨時休業および、営業時間などが変更になる場合がございます。事前にご確認ください。
※2022年5月6日時点での情報です。
※料金は原則的に税込み金額表示です。

PROFILE

◇泉麻人(コラムニスト)
1956年東京生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、編集者を経てコラムニストとして活動。東京に関する著作を多く著わす。近著に『黄金の1980年代コラム』(三賢社)『夏の迷い子』(中央公論新社)、『大東京23区散歩』(講談社)、『東京 いつもの喫茶店』(平凡社)、『1964 前の東京オリンピックのころを回想してみた。』(三賢社)、『冗談音楽の怪人・三木鶏郎』(新潮新書)、『東京いつもの喫茶店』(平凡社)、『大東京のらりくらりバス遊覧』(東京新聞)などがある。『大東京のらりくらりバス遊覧』の続編単行本が2021年2月下旬、東京新聞より発売された。
◇なかむらるみ(イラストレーター)
1980年東京都新宿区生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒。著書に『おじさん図鑑』(小学館)、『おじさん追跡日記』(文藝春秋)がある。
https://tsumamu.tumblr.com/

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