<花に舞い踊る>水仙 美しい青年の面影

2022年4月29日 07時48分

「水仙丹前」を踊る楳若仔一郎=2019年、第55回推薦名流舞踊大会から

 夏が近づいてまいりました。冬から春にかけて姿を見せていた水仙が姿を消していきます。
 その名残を惜しみ、今回は水仙に因(ちな)んだ作品をご紹介します。水仙といえば、ギリシャ神話の美しい青年、ナルキッソスのお話をご存じでしょうか。水面に映る自分の姿に恋い焦がれて死に、水仙の花と化したことで知られる青年です。ナルシシズムの語源とも伝わります。スラリとした茎にちょっとうつむきかげんに花を咲かせる水仙の姿に、美貌の青年の面影が見えるような気がします。
 水仙を美しい青年にたとえるのは西洋ばかりではありません。江戸時代、一七五五(宝暦五)年に作られた「水仙丹前」という舞踊曲でも、人気の歌舞伎俳優が水仙に見立てられています。♪水仙の花の姿や若衆ぶり…と始まるこの作品。初代中村粂太郎(くめたろう)(一七二四〜七七年)を水仙の花にたとえ、当時流行の格好いい歩き方「丹前」を盛り込んでいます。粂太郎は舞踊の名手で、娘や傾城(けいせい)役を得意とした若女形でした。
 この作品に特に劇的なストーリー展開はなく、丹前の他に、紅葉の名を読み込んだ「紅葉づくし」や恋の様々(さまざま)を綴(つづ)る「恋づくし」、毛槍(けやり)を振る「槍踊り」などがあり、言葉遊びの風雅な趣と優美な旋律に乗せた演者の流麗な動きが見どころとなっています。とにかく粂太郎の麗しい姿を見ることが眼目といえるでしょう。初演当時の振りは伝わっておらず、今日では若衆や遊女の姿など各流派で様々な振り付けがされています。
 美しい青年が、たとえられる花、水仙。西洋との共通点を感じられる舞踊です。(舞踊評論家・阿部さとみ)

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