住宅の断熱化どこまで進むか 建築物省エネ法改正案が国会提出 現状後追いの側面も

2022年4月30日 06時00分
 新築住宅に断熱性能の基準達成を義務付ける建築物省エネ法改正案が、今国会に提出された。棚上げしていた自民党が判断を変えた。断熱化が進めば、急激な温度変化による「ヒートショック」で命を落とすこともある健康被害を防ぎ、省エネで地球温暖化対策にもなる。ただ改正案は現状の後追いの面があり、国会審議で今後の対策強化の加速を描けるかが焦点となる。(福岡範行)

◆前向き姿勢に転じた自民

 「業界が前向きになっていると党幹部にご説明いただいたのも、大きな影響があった」。法案提出に動いた1人、自民党衆院議員で再生可能エネルギー普及拡大議員連盟会長の柴山昌彦元文部科学相は振り返る。
 夏の参院選を控え、国会延長に否定的な自民党が当初、政府の提出法案を絞ったことで、改正案は提出すら危ぶまれていた。
 しかし、規制が強化される業界団体「住宅生産団体連合会」が早期成立を要求。2月には国土交通省に「十分な周知・習熟期間を確保することが不可欠」と異例の要望書を出した。
 ウクライナ危機による光熱費高騰で省エネへの注目度が増し、4月中旬、自民党幹部が前向きな姿勢に変わった。土壇場で、法案成立の道筋ができた。

◆先行する業界 不十分な基準

建築物省エネ法改正案の成立を求める署名について記者会見する東北芸術工科大教授の竹内昌義さん(右)と東京大准教授の前真之さん=東京・永田町の衆議院第二議員会館で

 「やっとスタートラインだ」。改正案の今国会成立を求める署名1万5000筆超を集めた東北芸術工科大の竹内昌義教授(建築設計)らは18日、衆議院第2議員会館で開いた記者会見でほっとした表情を見せた。
 改正案は、一定の断熱性能が必要な省エネ基準を満たす義務を、2025年度から新築住宅に拡大する。政府は14年のエネルギー基本計画で「20年までに行う」と明記したが、15年の法成立時も、その後の改正でも見送られてきた。
 コスト上昇で住宅販売が落ち込むことなどへの懸念からだったが、政府が義務化をもたつく間に業界の取り組みは先行。新築住宅の省エネ基準適合率は16年度に6割ほどだったが、19年度は8割を超えた。
 ただ、今回の省エネ基準は健康被害防止と省エネの両立には不十分だ。日本では冬に人がいる場所だけ暖め、脱衣所などは寒い家が多く、ヒートショックの要因になっている。竹内氏によると、冷暖房を増やさずに室温差をなくすためには、二段階上の基準を目指す必要があるという。

◆2050年排出量実質ゼロへ「勝負」

 政府は、義務付ける基準を改正案成立から30年度までに同案よりも一段階引き上げる方針を示しているものの、その先は未定。竹内氏は昨年、温暖化対策強化に向けた省庁横断の検討会で基準引き上げを訴えたが、「物事には順番がある」と説得されたと明かす。
 既存住宅への対応も課題だ。政府推計では、約5000万戸ある住宅全体で基準を満たしているのは1割。改修費の支援や、技術力の低い業者の習熟度向上も急務だ。改修費は新築時より割高だが、断熱設備のコストは「新築が義務化されれば、大量発注で値段が下がる」(立憲民主党・田嶋要衆院議員)との声がある。
 温室効果ガス排出量のうち、住宅やオフィスビルなど建物からの排出は3割に及ぶ。政府が掲げる30年度46%減(13年度比)、50年排出量実質ゼロに向けて、竹内氏は「この1年1年が勝負だ」と訴える。

 建築物省エネ法 建築物の省エネ化を目指し、2015年に公布。一部の建築物の省エネ基準への適合義務や、販売や賃貸時に事業者が省エネ性能を示す努力義務が定められている。21年に菅義偉政権は「50年までに温室効果ガス排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)」に向けた議論で、25年度の住宅の基準適合義務化や性能表示制度の強化の方針を打ち出した。

前のページ

おすすめ情報

明日への扉の新着

記事一覧