研究者人生はドラマ 『オオルリ流星群』 作家・伊与原新(しん)さん(49)

2022年5月1日 07時00分
 科学の世界に偶然触れて、新たな視線で自分を見つめ直す。そんな人々の物語を紡いだ短編集『月まで三キロ』で新田次郎文学賞を受賞、続く『八月の銀の雪』は直木賞候補になった。本書は、同じテーマで挑んだ長編小説。多様な悩みに直面する中年世代に焦点を当てた。「ある程度のリアリティーを持って、登場人物それぞれの人生の行き詰まりを描くというのは大変でした」と振り返る。
 実家の薬局を継いだ久志は、近くにできたドラッグストアに押され、店の先行きに頭を痛める。閉塞(へいそく)感ある四十五歳のいま、変わらぬ輝きを放つのは、空き缶で巨大タペストリーを完成させた高校三年の夏の思い出だ。その仲間の一人、「スイ子」こと彗子(けいこ)が、自力で天文台を造ろうとしていると知り、他の仲間たちと一緒に協力する。
 四十五歳という年齢を巡るやりとりが印象的だ。久志らは、気力・体力や自分のために使える時間など、失われつつあるものを数える。研究機関を離れても、太陽系の果ての星を探す研究を続けようとするスイ子は、言う。<今は、物事にはいろんなやり方があるってことを知ってる。歳を重ねた分、知識もあるし、知恵もついたから>
 執筆のきっかけは、京都大などのチームが、初めて太陽系の果てに微小天体を発見したというニュース。低コストに抑える工夫と観測手法のアイデアを知り「これは小説になると瞬間的に思った」。分野は異なるが、自身も二〇一〇年のデビュー以前は研究者だった。地磁気を使って地球内部の活動の様子を知ろうとしていたという。
 伊与原さんにとって科学と小説の関係は? 「物語を思い付く時の源泉が、科学の題材ということが多いんです。科学的な事実そのものというより、研究者の考えや生活、人生にドラマを感じて小説にしたいな、と思う。研究が役に立つかどうかなんてどうでもよくて、好奇心の赴くままに、世界の端っこをこつこつ広げていってる人たちを書きたいなあ、と」
 本書も、もちろん科学的な意義を伝えたいわけではない。「例えば、流れ星が太陽系の端っこから来たのかもしれないというのを知ってるのと知らないのとでは見え方も違うと思う。実はそれを知ったら世界が広がる、見え方がちょっと違うかもしれないというところを感じてもらえたら」 KADOKAWA・一七六〇円。(北爪三記)

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