非正規賃上げ、春闘が「最低賃金」後追い 受け身の労使では格差是正に懸念 メーデーに考える

2022年5月1日 06時00分
 日本経済の大きな課題とされる非正規労働者の賃上げで、春闘が毎年秋の最低賃金(最賃)改定に主役の座を奪われている。春闘の実績を本紙が分析すると、前年秋の最賃の引き上げ額を後追いする傾向が鮮明だった。労使が「最賃が上がるから賃上げ」という受け身の姿勢では、持続して格差を是正できない恐れがある。労働者の祭典メーデーの1日に問題点を考える。(山田晃史)
 最低賃金の引き上げ額と春闘での非正規賃上げ額(いずれも時給、加重平均)を比べると、2019年秋に最賃が前年比27円上がったのに対し、20年春闘は同27.11円の上昇だった。近年、最賃と翌年春闘の上昇額がほとんどの年でほぼ連動していた。
 最賃の役割は本来、不当に低い賃金から労働者を守る安全網だった。それが最近は非正規の賃上げを先導しているように見える。

◆最低賃金上がらないと春闘も鈍り…

 実際、政府が最賃を全国平均で1000円にする目標を掲げて16年秋から大幅な引き上げを始めると、17年春闘の賃上げ額は前年より約4円も大幅に上乗せされた。逆に20年秋に最賃がコロナ禍でほぼ上がらなかった時は、翌21年の春闘は賃上げの勢いが鈍った。
 今年の春闘は12日時点で、非正規の時給引き上げ額が24.72円。昨年の10月に最賃は全国平均で28円上がっており、パートが多く加盟する産業別労組UAゼンセンの波岸孝典氏は「(春闘の賃上げは)最賃引き上げの影響が大きい」と認めた。
 神奈川県内の生協で食料品などの配送をしているパート女性(48)は「時給が上がるのは秋という印象が強い」と語る。昨年秋に時給が最賃に抜かれそうになった分を補うため、10円賃上げされたという。この結果、女性の基本時給は、同県の最低賃金と全く同じ1040円になった。

◆最低賃金「パート賃上げ要求の根拠に」

 労働専門のシンクタンク労働政策研究・研修機構の荻野登氏は「07年ごろまでは春闘の賃上げ額を前提に最賃が決まっていたのが逆転した」と説明。理由としては「近年最賃は経済対策として継続的に引き上げられており、労組が組合員の時給が追い抜かれないように最賃改定額を意識した要求を続けた結果」と分析した。
 連合系労組の非正規担当者は「貧困対策だった最賃が今は、パートの賃上げを要求する際の最も重要な根拠になってしまった。賃金は本来、労使主導で決めなければならないのだが…」と複雑な心境を漏らす。
 日本総研の山田久氏は「最賃は政権の思惑に左右される問題があり、今の状況では最賃が上がらなかった時に非正規の賃上げが弱くなる恐れがある。持続的に格差を是正するためにも、労使が主導して賃上げをすべきだ」と話す。

最低賃金 法律で決められた労働者の賃金の下限。都道府県ごとに時給で示される。労使の代表と有識者でつくる中央審議会が引き上げの目安を示し、夏の各都道府県の審議会を経てそれぞれ決定。毎年10月ごろに改定される。最賃以上の賃金を支払わないと、経営者に罰金が科される。政府が「年率3%の引き上げで全国平均1000円を目指す」と目標を示した後、2016年からコロナ禍の20年を除き、前年比3%超の引き上げが続く。現在の全国平均は930円。

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◆低迷する労組組織率、春闘波及力に限界

 「賃上げを獲得し、社会全体に波及させることが重要」。連合の芳野友子会長は就任後、会見などで繰り返し強調してきた。賃金の停滞を打破するには、非正規への賃上げの広がりがカギとみているからだ。
 連合は2001年からパートら非正規労働者の時給引き上げを要求してきた。しかし約20年たった今も、正社員より3割以上は賃金が低い。芳野会長も「格差の是正がなかなか進んでいない」と認める。
 厚生労働省によると、春闘で賃上げを要求する労組への加入割合は下がり続け、21年で16.9%。このうち、パートら短時間勤務の非正規労働者は8.4%にとどまる。従業員100人未満の中小企業に至っては正社員や非正規全て含めても1%に満たず、春闘の波及力には限界が指摘される。

◆「大勢の非正規まとまる組織化が必要」

 一方の最低賃金(最賃)は労組未加入者にも適用され、年々存在感を増す。厚労省の調査では、最賃引き上げ後に最賃を下回る時給の労働者の割合は11年度に全国平均で3.4%だったが、19年度は16.3%に増えた。最賃を下回れば企業が罰せられるため、事実上、強制的に賃上げを迫る形だ。日本商工会議所の調査では、昨年に最賃を下回ったため賃金引き上げを行った中小企業は40.3%に上った。
 賃金に詳しい浜銀総合研究所の遠藤裕基氏は「日本は会社ごとの労組が中心で、産業別など企業横断的に労組が組織される欧州とは違って交渉力が弱いことが、長年の賃金停滞を招く一因となった」と解説。春闘で非正規の賃上げを実現するため「会社の垣根を越えて大勢の非正規でまとまれる労組の組織化が必要だ」と話した。(山田晃史)

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