[小さな鯉のぼり] 三重県鳥羽市 中村ちよか(68)
2022年5月1日 07時16分
◆わたしの絵本
◆300文字小説 川又千秋監修
[空気清浄機] 愛知県東郷町・パート・59歳 吉田美智子
この度(たび)、わが社から画期的な空気清浄機が発売されることになりました。
この製品は、花粉、ハウスダスト、細菌やウイルス、有害物質などを取り除くだけではありません。
寝る前に、このボタンをポン! と押してください。
今日起きた嫌な出来事を全て吸い取ってくれるのです。
吸い取ったマイナス因子は除去フィルターに集められてプラス因子に転換され、室内に戻されます。
そうです! わが社の開発した空気清浄機は空気の汚れだけでなくストレスも除去してくれます。そんな夢のような、他社では企画すらできない製品を、わが社は開発しました。
パワーや勇気を補給し、朝起きたらやる気満々になれる新製品です。
作動音も静か。
ぜひ、お試しください。
<評> これぞ夢の新製品! 使用者が眠っている間に、心の中にたまったゴミや汚れを、きれいさっぱり掃除してくれるという宣伝文句…ですが、一夜明けたら夢も一緒に覚めてしまうかもしれません。
[国語辞典と国内旅行] 三重県伊勢市・パート・41歳 山本憲吾
国語辞典を引いたとき赤ペンでチェックする。
使いだしてから二十年以上たつ辞典だが、圧倒的に赤が入っていないページの方が多いのは、もちろん語彙(ごい)力が豊富などという立派なものではなく、書物一冊読み終えるのに時間をたっぷりかけているせいだと思いたい。
そう考えると、死ぬまで開かれることのないページ、意味を調べられることのない単語というものもあるのでは。そこで思うのは国内旅行のことである。
日本人として生まれたからには、死ぬまでにすべての都道府県に行ってみたいとかねて思っていたが、出無精な私が足を踏み入れたそれは、明らかに四十七に及ばない。
辞典読破、日本踏破。
私が破るには、どちらも、あまりに分厚い。
<評> ネット検索は確かに便利ですが、長年、共に過ごした座右の辞書には、さまざまな思いが染み込んでいて味わいが違います。ついでに日本全図を見渡せば、まだまだ未踏の世界が残っていますね。
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