『元彼の遺言状』新川帆立さん シリーズ第3作刊行 作品ごとに主人公 働く女性の群像劇を

2022年5月2日 07時17分
 『このミステリーがすごい!』大賞の受賞作『元彼の遺言状』(宝島社)で、昨年デビューした新川帆立さん(31)。主人公の弁護士・剣持麗子が活躍する同作はたちまち人気を集め、現在テレビドラマも放送中。4月に出したシリーズ第3作『剣持麗子のワンナイト推理』で累計80万部を突破した。新川さんは「シリーズ全体として働く女性の群像劇にしようと思っています」とさらなる続編への意欲を語る。 (北爪三記)

1540円

 「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」。謎めいた遺言状を残した元交際相手の死を発端に、莫大(ばくだい)な遺産を巡って麗子が奔走する『元彼の遺言状』。コミカルさを漂わせつつ、ぐいぐい引っ張る展開に加え、主人公が魅力を放つ。

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 東京・丸の内の大手法律事務所に所属する二十八歳。上司から「よく切れるナイフ」と評される麗子は、「もっとお金が欲しい」と明言し、バリバリ仕事をこなす。冷静に相手を観察するが、その地位や立場には惑わされない。
 新川さんの元には「主人公と自分を重ねて読んだ」「元気が出た」といった読者からの手紙が届き、そのほとんどが女性という。「うれしいですね」。新川さんがほほ笑む。「普段、思っても言えないことや、自分の役割に沿った発言をしなければならないことが皆さんあると思う。それを飛び越えてはっきり言えたらいいなという気持ちもあって、主人公には全部言ってもらおうと考えました」
 ただ、麗子は単にきっぱりしているだけではない。自分を卑下する女性に「あんたも十分魅力的よ」と言ってやりたくなったり、自らを突き動かす衝動を持て余して悩んだり。「多面的に、リアルな女性に近く書きたかった」と新川さんが言うのは、読者として「これまでのフィクションはあまりにも女性をテンプレート的に書きがちなのではないか」と感じていたからだ。
 書き手として、誰もが楽しめるよう工夫する一方、念頭に置くのは同世代の女性。「正確に言うと」と言葉を継ぐ。宮崎市で育ち、高校時代は茨城県、大学進学を機に上京した新川さんは、そのまま地方で暮らしている自分をよく想像する。その「仮想自分」の生活に、彩りや刺激を添えられたら、という思いなのだという。
 小説家を志したきっかけは、十六歳の時に読んだ夏目漱石の『吾輩は猫である』。「小説って読むのも楽しいけど、書くほうがもっと楽しいのでは」と思った。経済的な基盤があれば書き続けられると考え、まずは安定した仕事に就こうと国家資格である弁護士に。身近な世界を舞台として執筆に挑んだ作品がデビュー作となった。
 シリーズ化に際して考えたのは、一作ごとに主人公が変わる構想。「女性弁護士」と一口に言っても、当然ながらそれぞれの個性があることを新川さんは実体験として知っている。昨年十月に出した第二作『倒産続きの彼女』は、麗子と同じ事務所の後輩・美馬玉子を主人公にした。地方出身で懸命な努力の末に弁護士になった玉子は、麗子とはまた違った魅力がある。

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 もうひとつは、各主人公が年齢を重ねていく設定にすること。「麗子ちゃんも年に応じて悩みも変わるし、人間的な部分も変わるはず。読者の皆さんもそうだと思うので、一緒に付き合ってもらえるシリーズになったらいいなと思いまして」。五編から成る連作短編集の最新作『剣持麗子のワンナイト推理』には、麗子のこんな心の声がある。
 <経験を積めば、気づくことが増えるのは当然だ。考え続けていれば、考えは変わるものだ>
 今後、現代を生きるどんな女性たちが登場するのか。麗子も含め、どんな活躍をみせてくれるのか。期待は膨らむばかりだ。
<しんかわ・ほたて> 1991年、米テキサス州ダラス生まれ、宮崎市育ち。東京大法学部卒業後、弁護士を経て2021年に作家デビュー。『元彼の遺言状』シリーズとは別の新著『競争の番人』(講談社)を今月、刊行予定。現在は米国在住。

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