労災認定、副業時間を合算 労政審部会合意 兼業の実態反映

2019年12月23日 16時00分
 副業など勤め先が複数ある人の労災について検討してきた厚生労働省の労働政策審議会の部会は二十三日、すべての勤め先の労働時間を合算して残業時間を計算する方式に改めることで合意した。現在は勤務先ごとの残業時間で判断しており、実際には過労死ライン(月百時間)を超えて残業しても過労死認定されない問題があった。厚労省は来年の通常国会に労災保険法などの改正案を提出する。
 現行の労災制度では、法定労働時間(一日八時間、週四十時間)を超えて働いた残業時間は一社ごとに判断している。例えば、本業のA社で月百六十時間(一日八時間)、副業のB社で月百二十時間(同六時間)働く人が心臓疾患などで倒れたとする。それぞれの会社では法定時間内なので残業時間は「ゼロ」だ。
 見直し後は、月の労働時間は合算して二百八十時間となり、残業時間は百二十時間。過労死ラインとされる月百時間の残業時間を超えるので、過労死の認定基準を満たすことになる。
 また、現行制度では、労災保険の補償額は事故が発生した就業先の賃金のみに基づいて計算されているが、新制度では複数の職場の賃金を合算した額をベースとする方針で、補償額は増額される。
 政府は働き方改革で副業や兼業を推進しながら、働く人を保護する議論は遅れている。今回は労災が起きた場合の方針が決まったものの、肝心の過重労働を防ぐための複数職場の労働時間管理については、労政審の別の部会で検討中。だが、副業先の勤務状況まで把握するのは困難などの意見もあり、議論は進んでいない。

◆副業先含め、各企業が労働時間管理を

<解説> 副業を持つ人の労災認定を巡り、政府は現行制度を改め、本業と副業の労働時間の合算を認める方針に転じた。働き方改革で副業推進の旗を振る一方で、働く人の健康を守るセーフティーネット(安全網)が未整備との批判があった。今よりも過労死などが労災に認定されやすくはなるが、遅きに失した感は否めない。労災に詳しい川人博弁護士は「現行制度のせいで労災認定されなかった人も、さかのぼって救済されるべきだ」と指摘している。
 今回の方針は、不幸にも労災が起きてしまった後の「事後措置」についての見直しでしかない。より重要なのは、未然に過重労働を防ぐことだ。そのためには「事後」ではなく日々働いている本業と副業の労働時間をどう把握、管理するかというルールを決めなければならず、労政審の別の部会で検討している。
 副業先の労働時間を把握するには労働者の自己申告に依存しなければならず、把握するのは難しいとの声もある。労働基準監督署が認定する労災の場合とは異なり、企業ごとに日々の労働時間を管理することになれば、複数の職場で働かせて、残業時間の上限規制を逃れるなど悪用されかねない。
 厚労省の調査によると、副業を持っている割合は本業の年収が二百九十九万円以下の低所得層が高く、生計を立てるためにダブルワークなどで長時間労働にならざるを得ない人が多い。
 こうした実態を踏まえれば、仕事を掛け持つ人の健康被害を防ぐためには労働時間や勤務実態を把握し管理することが大事だ。副業推進というなら、各企業に副業先も含め、労働時間の管理を徹底させるべきだ。 (編集委員・久原穏)

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