戦争、政治の劣化、行き着く先は…造形作家が立体アートで警鐘鳴らす 3日から東京都美術館で展示 

2022年5月3日 06時00分
 「戦争で物事を解決しようとする政治家。思考停止した愚かさに触発された」。東京都在住の造形作家・中垣克久さん(78)が、ウクライナの戦禍や日本国内の軍備増強論を踏まえ、地獄へ連行される人々を表現した新作の立体アートを完成させた。目隠しをされ鎖でつながれた人々の姿は、私たちではないのか―。政治の劣化と暴力、戦争の行き着く先に、作品は強く警鐘を鳴らす。(宇佐見昭彦)

目隠しされ連行される群衆が戦争、抑圧、死の恐怖を感じさせる中垣克久さんの新作「時代(とき)の肖像-無明・滅亡の黙示録」=神奈川県内のアトリエで

◆人間が善悪判断できなくなっている

 3日の憲法記念日に東京都美術館(台東区上野公園)で始まる展示を控え、神奈川県内の中垣さんのアトリエで新作を見た。
 ぼろ布をまとい、首に縄をかけられ、鎖で引っ張られていくうつむき加減の人の群れ。ウクライナでの虐殺の犠牲者の映像が脳裏に残るせいか、立っているのに遺体のようにも映る。
 作品名は「時代ときの肖像―無明むみょう・滅亡の黙示録」。無明とは、明るさが足りず真実や真理が見えない状態、無知を指す仏教用語だ。
 「人間が善悪の弁別をできなくなっている。話し合いで解決しようとせず、人の領土へ踏み込む。無知のなせるわざだ」。新作に込めた批判は、ロシアのウクライナ侵攻のみならず、私たちの住む国の姿を問う。「日本の政治で無知を一番感じさせたのが安倍政権だ」と中垣さんは言う。
 安倍晋三首相(当時)主催の「桜を見る会」に首相の地元後援者が多数招かれた。「森友学園」問題を巡っては、財務省の決裁文書改ざんを強要され、近畿財務局の元職員赤木俊夫さん=当時(54)=が自殺に追い込まれるという痛ましい犠牲を生んだ。
 「善悪の判断を失い、損得で動く。(安倍氏)当人は今も自民党の最大派閥の領袖りょうしゅう。無明の世界です」。知のない暗愚な政治が、人類を滅亡に導く。その危惧が新作を生んだ。
 「戦争や軍備で解決しようとする思考停止は、プーチン政権だけでなく、安倍元首相らも一緒。ウクライナに核兵器があればどうだったか、日本も核共有の議論を、などと言っていることもおかしい」

◆表現の封殺と闘い続ける

中垣克久さん

 中垣さんは2014年、憲法改悪への危機感を表現した別の作品「時代ときの肖像―絶滅危惧種」で、作品中の紙片に書かれた「憲法九条を守り」「靖国神社参拝の愚」などの文言が「政治的だ」と問題視され、都美術館から作品の撤去や手直しを求められた。
 同作品は「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」にも出展されたが、企画展へのテロ予告や脅迫が相次ぐ中、わずか3日で展示中止に追い込まれた。
 表現の封殺との闘いでもある中垣さんの制作活動。「この新作も、その続き。安倍政権下で起きたこと、いまプーチン政権がしていることも滅亡への道だ。それをずっと問い続けている」。自由な政治批判、反戦の声すら封じられ、逆らうと拘束・連行されるような世の姿は、新作の捕らわれた人の群れと重なる。

 なかがき・かつひさ 1944年、岐阜県高山市で生まれ、古川町(現飛騨市)で育つ。東京芸術大大学院修了。文化女子大(現文化学園大)教授を経て、人間の尊厳、震災、コロナ禍などをテーマに表現活動を続ける。

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 展示は3~10日午前9時半~午後5時半(3日は午後2時から、10日は午後1時半まで)、都美術館のギャラリーAで。中垣さんが主宰する「現代造形表現作家フォーラム」のメンバーら計26人の作品が並ぶ。入場無料。

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