「子どもの人権」日本で理解進まないのはなぜ? 国連の「権利条約」世界158番目批准から28年、やっと議論開始

2022年5月5日 06時00分
 政府が来年4月発足を目指す「こども家庭庁」の法案と、子ども政策の基本理念を定める与党の「こども基本法案」や野党の対案が国会に提出された。いずれも子どもの意見を尊重することなどを原則とする国連の「子どもの権利条約」を反映した。条約批准から28年、ようやく条約に基づく国内法の議論が始まった。なぜ法整備は進まなかったのか、なぜ今必要なのかを取材した。(柚木まり、川上義則)

◆「家庭教育の否定につながる」「日本には必要ない」

 こども基本法案などを審議した4月22日の衆院内閣委員会。自民党の松本尚氏は与党案の「こどもが意見を表明する機会の確保」に関連し、「一部の大人が子どもの代弁者として過剰に権利を主張し、家庭における子育ての否定につながる」と懸念を示した。
 日本では、子どもの権利への反発は一部で根強い。日本が子どもの権利条約を批准したのは1994年。世界で158番目と遅かった。「学級崩壊などに直面した教育現場で『子どもたちに権利を教えたら、学校は大変なことになる』といった懸念があったようだ」。批准国の状況を審査する国連の「子どもの権利委員会」委員長の大谷美紀子弁護士は説く。
 大谷弁護士によると、栄養失調になったり、路上で生活したりする子が多い発展途上国の問題で「日本で条約は必要ない」と受け止められたという。批准後も国連から何度も指摘を受けながら、国内法は整備されなかった。

◆自殺、児童虐待が急増「子どもの声聞くのは急務」

 子どもの権利を守るため親は助言や支援する役割を担い、国は必要に応じて親を支援する義務がある。大谷弁護士は「誤解されがちだが、子どもは権利の主体ではあるけれども、大人と同じような自己決定が認められているわけではない。だからこそ、自由に意見表明し、反映される権利が保障されなくてはならない」と説明する。
 日本では今、子どもの生命や安全が危機にさらされている。2020年の19歳以下の自殺は777人で、15〜19歳の死因のトップは自殺だった。20年度の児童相談所の児童虐待の相談対応は20万5000件と過去最多。「生命や生活の危機にさらされた子どもの声を聴くことが、喫緊の課題だ」。政府に子ども政策の基本方針を提言した有識者会議のメンバー、宮本みち子放送大名誉教授は、厳しい状況にある子どもたちにこそ、子どもの権利が必要だと話す。
 英国では、自治体に子どもの気持ちや意見を代弁する専門員「アドボケイト」の配置を定めている。制度開始の背景には、01年に発生した、親戚に引き取られた8歳女児の虐待死事件で、ケースワーカーや行政の福祉担当者らが携わりながら、被害児童の話を聴かずに事件を防げなかった反省がある。

◆選挙権ない子どもの声、代弁者が必要

 子どもの声を聴き、抱える問題に対処するには予算も人も要る。例えば、虐待を受けた子どもの一時保護所では、子どもの話から状況を正しく把握する必要があるが、日本では「保護人数に対し、職員数が少な過ぎて話を十分に聴けない」(宮本名誉教授)。
 政治に声を届けようとしても、子どもに選挙権はない。厚生労働省の調査では、18歳未満のいる世帯は1986年に全世帯の46.2%だったが、2018年には22.1%に半減。子どもの声を身近に感じられる大人も減っている。
 一方、英国では、政府の施策で子どもの権利が守られているかを調査、提言する独立機関「子どもコミッショナー」を国に置く。政治に参加できない子どもの代弁者の役割を果たす。
 子どもコミッショナーは、日本の国会で審議中の与党案では設置が見送られたが、立憲民主党案には盛り込まれた。大谷弁護士は「日本でも子どもの声を代弁し、行政を監視する独立機関が必要だ」と訴える。

 子どもの権利条約 18歳未満の全ての人の基本的人権を尊重することを目指す国際条約。1989年に国連総会で採択され、日本は94年に批准した。子どもを独立した人格と尊厳を持つ権利主体と位置付けた。①子どもの意見の尊重②子どもの最善の利益③差別の禁止④生命や発達に対する権利ーの4原則を柱とする。与党が国会に提出した「こども基本法案」や野党の2つの対案にも、この考え方が反映されている。国連の「子どもの権利委員会」は批准国の条約の履行状況を審査する。

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