「子どもに決定権はない、だからこそ意見聞いて」 国連子どもの権利委委員長、大谷美紀子弁護士に聞く

2022年5月5日 06時00分
 政府が来年4月の設置を目指す新官庁「こども家庭庁」の設置法案の国会審議が始まった。これに併せ、国連の「子どもの権利条約」の原則を基本理念とする与党の「こども基本法案」、立憲民主党の「子ども総合基本法案」、日本維新の会の「子ども育成基本法案」も審議が進む。日本は条約が提唱する「子どもの権利」を広く認める国内法の整備を国連から求められてきたが、ようやく動き始めた。条約の批准国の状況を審査する国連委員会で日本人初の委員長を務める大谷美紀子弁護士に、国内法整備の意義や課題などを聞いた。(聞き手・柚木まり)

 おおたに・みきこ 1964年、大阪府生まれ。87年上智大卒業後、90年から弁護士。米コロンビア大大学院、東京大大学院修了。子どもの権利条約について学んだことがきっかけで、人権教育や国際人権法に関心を持つ。弁護士としてだけでなく、NGO活動を通じて子どもや女性、外国人の人権問題に取り組む。2017年から日本人初の国連子どもの権利委員会委員、21年から同委員長。

「子どもの権利条約」などについて話す弁護士の大谷美紀子さん

◆いじめや虐待、貧困、自殺、体罰…日本でも問題山積

 —日本が1994年に条約に批准してから、対応する法律が整備されないまま28年が経過した。
 日本が本気で条約内容を守ろうとしてきたかというと、決してそうではない。30年近くの間に、個別の取り組みはあったが、「子どもの権利」という考え方は浸透しなかった。選挙権がない子ども自身が自ら声を上げたり、運動を起こす力が足りない中で、条約の仕組みも中身も十分に知られてこなかった。日本に住む私たちにとって、今も条約は遠いものだ。
 条約を批准する国は、国内法と矛盾がないか確認し、必要な法律を作ったり改正したりする。日本では世界の子どもたちの多くが直面しているような問題が起きておらず、既存の法律で対応できるとして、新たな法を整備してこなかった。私はミニマム・アプローチと呼んでいる。
 —子どもの意見を聞くとはどういうことか。
 子どもの人権という観点から考える時に、子どもの最善の利益を優先し、子どもの意見を聞き、尊重するという原則が非常に重要だ。ただ、条約は子どもが全てを決められるとは言ってない。子どもの間は決定権が大人にあることの方が多い中で、子どもの権利を守るためには「子どもにとって何が一番良いか」という観点から決めなければならない。そのためには、子ども自身の意見を聞いて、決定に反映させるべきだということだ。
 個別の具体例で言えば、虐待を受けた子どもを親から引き離すとか、両親の離婚の際に親権をどちらにするかと言った時だ。大きな意味では、子どもに関わる政策や事柄、学校の校則や少年法の適用年齢などを決める時がそうだ。いずれも、子どもたちに意見を聞かなければならない。その通りになる訳ではないことも説明し、結果も伝える必要がある。子どもに意見を聞くというのは簡単ではないし、聞く側の大人の訓練も必要になる。
 —国連子どもの権利委員会は、包括的な子どもの権利を認める法律の整備を強く求めてきた。国内法制定の意義は。
 いじめや虐待、貧困、自殺、体罰などの問題は日本でも起きていて、これらは子どもの権利の問題なのに、これまで条約と結び付けて考えられてこなかった。国内法が整備されることで、日本も子どもの権利の観点から、子どもを取り巻く問題を議論する大きなきっかけになると思う。
 法的に説明すると、子どもの権利条約は、批准したことで憲法98条を通して国内法になっている。でも、公務員や人々の意識の中で、法律とは国会で作った日本語で書かれたものだろう。国連の委員会が繰り返し「体罰がだめだ」と言うよりも、児童福祉法や児童虐待防止法で体罰はいけないと明記し、民法から(親権者に認められた)「懲戒権」を削除するなど、日本の法律で定めていかなければ取り組みとしても進まないと感じる。
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