<地球異変 挑戦する福島>(中)ススキ畑 未来ともす

2020年3月12日 02時00分

高さ3メートルを超えるススキなどが植えられた畑。バイオマス発電のための燃料用作物を試験的に栽培している=福島県大熊町大川原で

 まっすぐ伸びた高さ三メートルを超えるススキが、きちんと整列されて植えられた畑で風に揺れていた。
 東京電力福島第一原発の南西六キロ、福島県大熊町の畑を二月下旬に訪ねた。昨春に避難指示が解除された大川原地区で、東京五輪聖火リレーのコースから三百メートルほど北に入った場所。大型ダンプが走る常磐自動車道に面し、原発事故の前は水田が広がっていた。
 「このススキはジャイアントミスカンサスで、そっちにあるのはライ麦。どれも電気をつくる燃料になるんですよ」。町産業建設課の東(あずま)裕行さん(44)が教えてくれた。二年前から、二千八百ヘクタールの畑で試験的な栽培を続けているという。
 大熊町は、作物を発酵させて、発生したメタンガスで電気をつくる「バイオマス発電」に挑もうとしている。石炭など化石燃料と異なり、排出される二酸化炭素(CO2)が少ない。二十四時間発電でき、太陽光や風力発電のように天候に左右されない利点もある。
 バイオマス発電では、作物を発酵、蒸留させて作るバイオエタノールや、森林を伐採して木質チップを燃料にすることも検討された。だが、原発事故による放射能汚染が選択肢を狭めた。蒸留した液体に放射性セシウムが残る恐れがあり、森林は除染されていない。
 「発電した電力を販売し、熱は農作物の栽培や温浴施設で活用する」-。町が昨年二月にまとめた報告書には、バイオマス発電を中心にした将来像が描かれた。この仕組みを「大熊方式」と名付け、福島第一原発が立地する町から、復興をリードしようとうたう。
 ただ、東さんは「実現へのハードルはかなり高いんです。本当にチャレンジング」と話す。最大のネックは採算性。作物を植える畑を広げるほど、人件費や大型機械の費用がかさみ、赤字になるのが避けられない。「国や県の補助金なしでは到底始めることができない」と打ち明ける。
 全国的にメタンガスの利用は、不要なゴミを材料とするのが主流。東さんによると、わざわざ作物を栽培する例はない。前途多難なものの、二〇五〇年までにCO2の実質排出ゼロを目指す宣言をした町にとって目玉事業の有力候補だ。
 燃料となる作物を植えて畑を使い続けることは、将来的な営農再開の可能性を残す面もある。試験栽培の畑を手入れする町民の新妻茂さん(70)は「除染で土がはぎ取られってから、作物を植えていかないと良い畑にはなんねえ」と話す。
 町は二二年春、帰還困難区域内の一部(特定復興再生拠点区域)で避難指示解除を目指している。町によると、対象区域の農家で営農再開の意向があるのは一割。避難先から町に戻る人もわずかなのが確実だ。
 バイオマス発電は二二年度にも始まる見込みだったが、まだ具体的な計画はない。「前例のないバイオマス発電が始まれば、そこで働く若い人も全国からの視察者も増えますよね」。四年前に民間企業を辞めて東京を離れ、町職員に転じた東さんは諦めてはいない。 (小川慎一)
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