集団自決巡る教科書の記述から「軍の強制」削除<沖縄は復帰したのか~50年の現在地>

2022年5月6日 06時00分
<連載⑧2007年3月31日 教科書検定>

2007年3月31日本紙朝刊1面

 「集団自決『軍の強制』削除」―。2007年3月31日、本紙は朝刊1面トップでそう報じた。08年度から使われる高校教科書の文部科学省の検定で、沖縄戦を巡る住民の集団自決に旧日本軍が関与したという記述の修正を求める意見が付き、出版各社が応じた問題だ。

◆一方の主張のみを根拠にした検定意見

 ある民事訴訟が発端となった。作家大江健三郎の著書「沖縄ノート」における集団自決のくだりについて、日本軍守備隊長だった男性が「記述は誤りで名誉を傷付けられた」として、大江と出版元の岩波書店に損害賠償と出版差し止めを求めた。
 文科省は①訴訟で原告が「自決命令はない」と意見陳述した②学説が軍命令の有無よりも集団自決に至った精神状態に着目して論じたものが多い―とし「強制したかどうかは明らかではない」と検定意見を付け、各出版社は軍の強制に触れない形に修正した。
 教育を含む「戦後レジームからの脱却」をスローガンに掲げた第1次安倍政権が06年に発足し、初めての教科書検定だった。大阪府内の公立中学校教員の平井美津子(61)はこの訴訟を傍聴するため大阪地裁にいた際、検定結果を知った。
 「原告関係者が『これで目的は達した』と話すのが耳に入った。そういうことかと。係争中の事案で、一方の主張を根拠に検定意見を付けたことに驚き、怒りを感じた」と平井は振り返る。

◆県民の反発受け強制性の記述は復活したが‥


 07年9月、沖縄県宜野湾市で開かれた抗議の県民大会に11万人(主催者発表)が参加した。反発の大きさに、間もなく文科省は姿勢を転換。検定意見は撤回しないものの、出版社の訂正申請を承認する形で強制性の記述が復活した。

現在の高校日本史教科書。集団自決については、軍による強制性の表現が弱まっている

 文科省教科書課は、当時の判断を「教科書検定は国として歴史的事実関係を確定するために行うものではないが、集団自決全てが軍の命令だったか明らかではなく、生徒の誤解を生むおそれがあるとして検定意見が付された」と説明する。
 これ以降は集団自決の記述に関して、検定意見が付いたことはない。しかし、現代史に詳しい関東学院大教授の林博史は「検定は今も日本軍の関与と強制を結び付ける記述を認めていない」と指摘する。「集団自決は住民が日本軍と一緒にいたところで起きている。軍が『米軍に捕まれば酷い目に遭う』と恐怖心をあおるなど、集団自決せざるを得ない雰囲気がつくられた。これは日本軍による『強制と誘導』だ」(敬称略)
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 サンフランシスコ講和条約が1952年4月28日に発効し、日本が独立を果たした一方で、切り離された沖縄にとっての「屈辱の日」から70年。本土復帰まで米軍施政下に置かれ、今も過重な米軍基地負担などに苦悩する沖縄は、本当の意味で「祖国」に戻ったと言えるのか。主な出来事を当時の記事でたどりながら10回の連載で考えます。(この連載は山口哲人、原昌志、村上一樹、小松田健一、後藤孝好が担当します)

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