若手教員全員に特別支援教育の経験を 対象生徒増えて教員配置追い付かず 文科省検討会議

2022年5月7日 06時00分
 文部科学省の検討会議が3月末、全教員が採用後10年目までに特別支援学校や小中学校の特別支援学級を複数年経験したり、学校間の人事交流を進めたりするよう求める報告書をまとめた。特別支援教育を受ける児童生徒が増えており、教員の専門性向上を狙うが、現場からは「教員の絶対数が足りず、人事配置だけでは解決しない」との声もある。(小松田健一)

文科省の検討会議がまとめた報告書のポイント
・教員が新任から10年目以内に特別支援学校や小中学校の特別支援学級で複数年勤務を経験
・特別支援学校・支援学級間での人事交流を促進
・管理職の任用に特別支援教育の経験を考慮
・採用では特別支援教育の単位取得状況や、ボランティアなどの経験を選考時に加点

◆「経験する利点は多い」

児童生徒数の増加で手狭となり、1988年に建てられた仮設のプレハブ校舎を現在も教室として使用している都立中野特別支援学校

 小学部から高等部まで、主に知的障害がある計331人の児童生徒が通う東京都立中野特別支援学校(中野区)。年齢や障害の程度に応じ、きめ細かい教育が行われている。休み時間になっても職員室に戻る教員はわずか。トイレの介助などを必要とする児童生徒もいて、目を離せないためだ。
 和田慎也校長は、特別支援教育で教員に求められる資質を「子どもが抱える課題を見極め、保護者の願いをしっかりヒアリングする必要がある」と強調。報告書に盛り込まれた特別支援教育の複数年経験や人事交流を「多人数の授業と、少人数授業の双方を経験する利点は多い」と評価する。

◆校長7割は未経験、知識乏しい現実

 背景には、特別支援教育を受ける児童生徒の増加に教員の配置が追い付かない現実がある。文科省によると、昨年5月時点で特別支援学校の教員の17%、支援学級の担任教員だと24%が臨時的任用の非正規雇用だ。支援学級担任が専門の教員免許を持つ割合は31%にとどまる。
 全国特別支援学級・通級指導教室設置学校長協会(全特協)によると、2021年度に校長は小中学校とも特別支援教育の未経験者が70%を超え、障害がある子どもの教育に知識が乏しいという現実もある。
 検討会議メンバーで、全特協会長を務める喜多好一・江東区立豊洲北小学校統括校長は「支援学級や(児童生徒が小中学校内で通常学級に属しながら、障害に応じた指導を受ける)通級指導教室は教員が不足し、厳しい状況にある。複数年経験は協会の強い要望だったので、盛り込まれたのはありがたい」と話す。

◆「単なる『お客さん』」心配する声も

 都教育委員会は、13年度から小中高校と特別支援学校間で、教員を3年間派遣する交流人事を実施。さらに23年度からは特別支援学校と地域の小中学校の特別支援学級間で1年間の交流人事を予定し、報告書の内容を先取りしている。
 経験が浅い教員を一気に受け入れると、現場の負担を重くする可能性がある。都教委の担当者は「国による教員増員などの配慮がないと、採用10年目までに全教員が特別支援教育を複数年経験するのは厳しい。引き続き、現在実施しているような特別支援教育に携わる教員の資質向上に取り組んでいく」とする。
 一方、現場の教員からは懐疑的な声も挙がる。都内の特別支援学校に勤務する女性教員は「どの学校にも毎年1人は新任教員が配属されるので、特別支援学校の受け入れが追い付かず、単なる『お客さん』として専門性が身に付かない可能性もある」と話す。通級指導を受け持つ都内の女性教員は「人を増やせないから一般の教員でカバーしようという考え方。実施は増員が大前提だ」と訴える。
 特別支援教育の経験が長い喜多氏も「人員面の配慮は必要」と指摘。その上で「多様な経験は能力向上に必ず役立つ。広く浅くでも構わないので、特別支援教育はどのようなものかをまず知ってほしい」と強調した。

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