与那国馬にみんなにっこり 激減の日本在来馬 伊豆の国に癒やしの5頭

2022年5月7日 07時36分

笑顔で与那国馬の毛並みを整える高橋さん=いずれも伊豆の国市で

 伊豆の国市の山中にある約1ヘクタールの「広場」では、日本固有の馬の一種、与那国馬(よなぐにうま)の5頭が元気に駆け回っている。日本最西端の沖縄・与那国島で系統が守られ、農耕馬として飼育されてきたが、農業の機械化が進み、個体は激減。かつての役務は終わったが、人なつこい与那国馬の持ち味は変わらない。魅了された地元の女性が広場を開いて1年、馬たちは訪れた人を和ませ、笑顔に包む。馬と触れ合える広場は種のピンチに一筋の光を差している。(渡辺陽太郎)

のびのびと草をはむ与那国馬

 「ちょっと待って」。4月下旬、「伊豆の国うま広場」に高橋美恵さん(48)の声が響いた。毛並みを整えてもらう1頭が高橋さんに構わず、草をはむため動き出した。ポニーのような小柄な品種とはいえ、体重は200キロ近い。引き留めるのには苦労するが、高橋さんは笑顔だ。「このマイペースも与那国馬の魅力」
 約1ヘクタールの広場には厩舎(きゅうしゃ)はなく、柵も最低限。競走馬のように厳格に管理せず、農耕馬として人と共に生きてきた与那国馬の環境に近づけている。「農耕馬としての役割は終えても、その魅力は変わらない」
 与那国馬は八重山列島の一般の家で飼育され、農耕や荷物の運搬などを担ってきた。離島という地域性もあり他品種との交雑が少なく、系統が保たれてきた。第2次大戦後、農業のスタイルが変わるにつれ、個体が急激に減った。馬の改良や増殖、希少種の保護などに取り組む日本馬事協会によると、1970年の飼養数170頭は80年には55頭に。保護意識の高まりもあり、近年は100余頭で推移している。
 高橋さんは十数年前、伊東市の牧場で与那国馬と出会った。「まるで人のように思えた」。社会人になって始めた乗馬で接する馬と異なり、調教馬を世話する際に感じる「恐れ多さ」がない。愛らしく表情は豊か、それぞれが個性的だった。一目ぼれしてこの牧場でボランティアを始めた。
 高橋さんは「農耕馬として家族の一員のように扱われてきた。だから個性的なんだ」と感じた。穏やかで人と仲良くなれるこの馬の魅力を広く伝えたいという思いが強くなった。県内の乗馬クラブに勤めて馬の扱い方を習得し、沖縄本島や離島にも出向き保護活動に取り組む人たちからも学んだ。沖縄移住も考えたが、首都圏に近い地元で「広場」開設の目標を定め2018年、用地を探し始めた。
 牧草栽培で使っていた土地を農家から借りられた。与那国馬を愛する仲間が協力し、20年春に開墾を終えた。7月には保護団体の協力で兵庫県と宮崎県から2頭を迎えた。高橋さんは「車に10時間以上乗ってきたが元気な顔だった」と喜びの瞬間を振り返る。

元気よく駆け回る与那国馬=伊豆の国市で

 21年5月に広場はオープン、現在与那国馬5頭がいる。完全予約制でえさやり体験や乗馬(体重70キロ未満)、引き馬などができる。近隣の催しにも馬と一緒に出向き、住民と触れ合ってもらっている。最初は馬を怖がる子どもが徐々に慣れ、笑顔になる。人と一緒に生きてきた与那国馬が農業という活躍の場を失っても、再び人に笑顔をもたらす。「この瞬間が本当にうれしい」と高橋さん。
 高橋さんの活動に、農林水産省局長や日本中央競馬会常務理事を歴任した山下正行・伊豆の国市長も注目する。「山あいで馬に乗りながらの森林浴なんて素晴らしい。米国のように子どもが馬と触れ合える。ありがたい活動だ」と絶賛。高橋さんは「このまちに馬がいて触れ合えるのが当たり前の環境にしたい。今後は繁殖もして、与那国馬を根付かせたい」と夢を語る。
 伊豆の国うま広場は入場料200円。各種体験は別料金。予約は電話=080(6040)4792=か、ホームページからメールで。営業時間は平日午後1〜5時。土日祝日は午前9時〜午後5時。
<与那国馬> 木曽馬や道産子(北海道和種)などとともに、日本馬事協会が定める日本在来馬8種の一つで、主に日本最西端の与那国島(沖縄県与那国町)に生息。体高は110〜120センチで鹿毛(かげ)と栗毛(くりげ)が多い。同協会によると、2021年度の飼養頭数は117頭。東京・上野動物園(1頭)、横浜・馬の博物館ポニーセンター(1頭)などでも飼育されている。

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