「世界最高レベルの国産コロナワクチン、5年以内に」政府の開発司令塔初代トップ 浜口道成・元名古屋大総長に聞く

2022年5月8日 06時00分
 新型コロナウイルスなどの国産ワクチン開発で、世界に遅れている状況を打開しようと、政府は3月にワクチン開発の司令塔となる組織「先進的研究開発戦略センター(SCARDA)」を発足させた。初代トップに就任した浜口道成センター長=元名古屋大総長=が本紙インタビューに応じ、日本のワクチンやRNA研究の深刻な停滞を認め「5年以内に世界のトップレベルのいいワクチンを作りたい」と決意を語った。(森耕一)

SCARDA(先進的研究開発戦略センター) 新たな感染症のパンデミックに備え、国産ワクチン開発の司令塔機関として日本医療研究開発機構(AMED)内に国が新設した。科学技術振興では異例の5年で1504億円の予算で、企業や大学の先進的なワクチンの開発に投資する。関連して政府は、世界トップレベル研究拠点づくり、ベンチャー企業支援に約500億円ずつを投じる。

 ―なぜ国産ワクチン開発は、遅れているのか。

ワクチン開発に予算を付けることが大切と語る、SCARDAの浜口道成センター長=東京都千代田区で

 「米国の場合、備えがあった。2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)などの反省から、生物医学先端研究開発局(BARDA)をつくり、新たなパンデミック(世界的大流行)に備えて企業のワクチン開発を大規模に支援してきた。日本はSARSなどの感染が広がらず反省が生まれなかった。1990年代に新3種混合ワクチンで健康被害が起き、最近は子宮頸がんワクチンの問題もあり、ワクチンに対する国民の否定的な感情も非常に強くなった」
 ―政府、製薬会社ともワクチンに消極的になった。
 「ダメージは深い。ワクチン研究者や技術者がいなくなった。開発に必要な装置も老朽化している。米国は政府が多額の投資で製薬会社を支えたが、日本はそうした支えがなく、製薬会社はワクチンには投資効果がないと判断してきた」
 ―SCARDAには5年で1500億円の予算がつき、研究費を大学や企業に配分して支援することになる。何を目指すか。
 「第一は次のパンデミックへの備え。今世紀になってSARS、エボラ出血熱などが発生した。今後も10年に1回は起こるだろう。教訓が忘れられ、また大騒ぎとならないように、恒常的な研究体制を作りたい」
 「メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンが、今後の主流になるだろう。従来の不活化ワクチンなどは病原体に合わせて一から準備しないといけないが、mRNAワクチンは包み込む油膜など周辺の部品は同じものを使える。新しいパンデミックでも、mRNAだけを書き換えて短期間で新しいワクチンを作れる」
 「課題もある。免疫の期間が短く、結構な副反応もある。変異があっても効き、免疫が長く続いて副反応の少ないワクチンを作れないか。やってみないと分からない研究にも資金は出さないといけない。一方で発展途上国でも使いやすい、室温で保存できる安いワクチンも必要だ。mRNA以外の研究にも取り組む」
 ―日本は「選択と集中」で、すぐに役立たない研究には予算をつけず、感染症も研究費がつかなかったという指摘がある。予算を配分する科学技術振興機構(JST)の理事長を務めてきたが。
 「私は、広く浅く予算を出しなさい、重点的な投資は大事だが裾野を枯らすなと言ってきた。日本は単年度会計の弊害もあり長期戦略を描き切れていない。新技術を評価する目利き力も弱い。私も名古屋大教授時代、RNAを使うがん治療研究で、マウスでは延命効果があったが研究費が取れず先に進めなかった」
 「ワクチンが成功して、世界的にRNA治療薬も次々に出てくる。がん、免疫異常、糖尿病にも使えるだろう。日本は完全に乗り遅れている。このままでは負けてしまう。日本の構造的矛盾は病巣が深い。ワクチン研究のトップレベルの拠点をつくって若手が集まるように支援し、経験が伝わって情熱を持って開発ができるようにしたい」

はまぐち・みちなり 1951年生まれ。三重県伊勢市出身。名古屋大大学院医学研究科博士課程修了。胆管がんなどの治療法を研究。同大医学部教授、同大学長を経て、2015年JST理事長。今年春からSCARDAのセンター長として国のワクチン開発司令塔トップに。

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