理想の美男をエロチックに…イケメン描いて15年 「少数派」日本画家・木村了子さんのこだわりとは

2022年5月8日 12時00分

◆裸の男性に刺し身乗せた「男体盛り」で目覚める

 4年間ほどは女性を描いていた。しかし、「色気がない」「自分をさらけ出せていない」などと評価された。それならばと2004年、自身の性愛の対象である男性を描いてみることに。男性モデルが「僕をどう料理してくれますかね」と言ったのをヒントに、裸の男性に刺し身を乗せた「男体盛り」を描いた。
 制作中、とにかく面白くて夢中だった。「自分がやりたいことはこれだったんだ」。それから、イケメンを描くことに目覚めた。

木村さんの作品「アジアン・エッセンス-菊」(本人提供)

 木村の描く男性はひげはなく、体毛もほとんどない。いわば架空の存在だ。しかし、木村が理想とする美男をエロチックに描くことは、「愛憎と客観を同時に得られるモチーフであり、人間を継続的に描くためのモチベーション」なのだ。
 女性を描くとそうはいかなかった。まず、「自分を描いているのか」と聞かれることが多くて煩わしい。それに、男性なら「どんなに恥ずかしいポーズをさせても一切の自己投影はなく、冷静に観察、表現」することができる。
 描くうちに「女は描かれるもの、見られるもの」という美術史の無意識の呪縛から自由になっていることに気づいた。男女を反転させただけだが、異性愛者の女性というマジョリティーが男性を描くことは、美術界では「少数派」だった。

◆当初は「恥ずかしくないのか」「気持ち悪い」と批判も

 国上寺の本堂に飾られる絵を描く木村さん=新潟県燕市で(本人提供)

 15年以上、イケメンを描き続けることで時代の変化も感じるように。当初は「こんなものを描いて恥ずかしくないのか」「気持ち悪い」と言われた。それが、今では否定的な声は少なく、公立美術館でも展示されるようになった。むしろ、美男ばかりを描くことは「ルッキズム」と批判される可能性もある。
 自分が男性を消費、搾取している面があることも自覚している。それでも、男女はお互いに性欲の対象であり、めでる対象であっていいはずだ。「男性を愛すること、描くことは私の生きる喜び。絵画における男性表現の可能性、楽しさを少しでも感じてもらいたい」
 社会の価値観の変化に関心がある。自分の表現はいろんな作品や人に影響を受けて形作られたから。表現者が社会と関係を結ぶには、創作活動を続けるしかない。だから、木村はこれからもイケメンを描く。
 (特別報道部・宮畑譲、文中敬称略)

◆デスクメモ

 他にはない独自性。木村さんに当てはまる言葉だろう。劣等感や迷いを味わいながら自らの作風を見いだしたという。わが身を振り返れば、迷うことばかり。紙面で何を扱うべきか、どう伝えるべきか。頭をひねる繰り返しで自分らしさが磨かれると信じ、日々の仕事に臨みたい。(榊)
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