大統領選で圧勝マルコス氏の素顔は「臆病」か 父の「独裁」、負の歴史に言及避け フィリピン

2022年5月10日 22時13分
 【バンコク=岩崎健太朗】9日のフィリピン大統領選は、元上院議員のフェルディナンド・マルコス氏(64)が約6割の得票で勝利した。ロイター通信によると、10日の声明で「父祖ではなく、私の行動で判断してほしい」と「団結」を呼び掛けたが、父の故マルコス元大統領の時代の人権侵害や不正蓄財への言及を避け、当時を美化する姿勢に一部の反発は強い。圧勝に乗じた独断専行への懸念もあり、首都マニラでは10日、数百人規模のデモが起きた。

マルコス氏(AP)

 「父は政治の天才で、母は一族最高の政治家だ」。マルコス氏は選挙戦終盤、メディアとのインタビューで、両親を政治の師と誇り「国民への奉仕を言い聞かされてきた」と強調した。一方、負の歴史に話が及ぶと「もう何度も説明した」とかわし、権力集中につながった長期の戒厳令は、反政府勢力への防衛で「仕方ない決断」と正当化した。
 自身の交流サイト(SNS)の発信では、家族と国を重ね「温厚な一家の長」のイメージを浸透させた。独裁者と称された父やドゥテルテ大統領のような強権的な顔はのぞかせていない。ドゥテルテ氏は以前「甘やかされて育った」「弱い指導者」と評したほどだ。
 候補者討論会を相次ぎ欠席し、厳しい質問が予想されるインタビューに応じないと、SNSでは「臆病マルコス」との揶揄がトレンドに。下院議員時代に国会で働いたことがある女性は「提案された法案に署名を加えるだけ。指導力や発想力を感じたことはなかった」と本紙に打ち明けた。
 大統領として絶大な権限を手にした先は見通せないが、父マルコス氏も当初の清新なイメージから変貌した。現在もマルコス一族の不正蓄財や財産相続を巡っては、大統領府直轄委員会の調査や裁判所の訴訟が続き、圧力がかかるとの見方もある。昨年のノーベル平和賞受賞者でニュースサイトを運営するマリア・レッサ氏は、マルコス氏の資質を厳しく追及。選挙前、英BBC放送に「彼が勝てば、フィリピンの未来だけでなく、過去(の評価)も決めることになるだろう」と予測した。

フェルディナンド・マルコス氏 1970年代を中心に独裁体制を敷いた故マルコス元大統領の長男。20代から地元北イロコス州知事などを務めた。1986年の「民衆の力革命」で一家で米ハワイに亡命。91年に帰国後、上下院議員を務め、2016年の副大統領選はロブレド氏に敗れた。今回の選挙戦では、かつての自身の脱税や学歴詐称、薬物使用疑惑が取り沙汰され、候補者資格も問われた。愛称はボンボン、BBM(ボンボン・マルコス)と呼ばれる。マルコス家は亡命から帰国後も母イメルダ氏が下院議員に当選、姉アイミー氏も現上院議員、長男サンドロ氏が今回の下院選で当選を決めるなど政治的権威を誇る。

彼自身への期待ない

フィリピン大のジーン・フランコ准教授(政治学)
 マルコス氏の父は同世代で秀でた1人だったかもしれないが、父と息子は同じではない。支持者の期待は彼自身の能力や実績ではなく、すべて父親の政治的遺産やノスタルジアからきている。選挙期間中に討論会を避け、父の時代の責任についてのメディアの厳しい質問をはぐらかした。そうした疑念を抱かせる姿勢は、果たして国のリーダーとして信頼を得られるだろうか。彼自身が強権を振るい、汚職に手を染めることはないかもしれないが、人々が政府を信用しなくなり、安定を損なう恐れもある。

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