新釈 古典落語図鑑 三遊亭兼好

2022年5月11日 07時08分
 新作落語と古典落語を月交代で掲載する第二水曜日。古典編は、一月にも掲載した三遊亭兼好(52)による「新釈 古典落語図鑑」をお届けします。連載となっての初回は、江戸っ子の血が騒ぐ夏の祭りや旅を題材にした「大山詣(まい)り」と「百川(ももかわ)」。ユーモアあふれるイラストと解説で理解を深めた上で、いざ寄席へ!

◆【大山詣(まい)り】憎めない「かわいげ」

 はやりの大山詣りに行く長屋の連中の悩みの種は、酒癖が悪い熊五郎。「腹をたてたら二分の罰金、手を出したら坊主頭(ぼうずあたま)」との約束で一緒に行くが、案の定、熊さんは神奈川宿で酔っぱらって大暴れ。寝ている間に坊主頭にされ、宿に置いていかれた熊さんは怒り、早駕籠(かご)で連中を追い抜き、長屋に駆け込むと、おかみさんたちを集めて…。
 ◇ 
 まず罰金の二分。一両が四分、今の貨幣価値で約八万円といいますから、二分は約四万円になります。そして、江戸っ子にとってまげはとても大切で、切られることは恥。坊主頭は俗世を離れて仏門に入る意味もありました。こんな約束をするくらい、置いていかれたくない熊さんの必死な気持ちが分かるでしょう。
 そんな坊主頭で語る、熊さんのうその話を信じたおかみさんたちは絵のような姿になり、オチに向かいます。熊さんを悪人にしてしまうと後味の悪い噺(はなし)になるので、憎めないかわいげがある人にするのが、演者の腕の見せどころです。
 大山阿夫利(あふり)神社(神奈川県伊勢原市)は今は通年で参拝できますが、神聖化されていた昔は、旧暦六月二十七日〜七月十七日だけ。江戸から往復四泊五日程度で、厳しい箱根の関所越えもない。帰りに金沢八景や江の島などの観光地巡りを楽しむ人気の旅だったようです。江戸っ子は「さんげさんげ…」などと念仏を唱えながら一週間水垢離(ごり)してから登ったそうですが、私はこの「さんげさんげ」を出囃子(でばやし)にしています。

◆【百川(ももかわ)】勘違いからドタバタ

 日本橋の高級料亭「百川」に奉公することになった百兵衛さん。田舎なまりの「主人家(しゅじんけ)の抱(かか)え人(にん)で〜」との言葉を、客の魚河岸の若い衆たちは「四神剣(しじんけん)の掛け合い人」と聞き違えた。去年の祭りで金を使い果たし、「四神剣」をまげて(質屋に入れて)しまったので大慌てだ。
 ◇ 
 四神剣の説明からしましょう。天の四つの方角をつかさどるとされる霊獣(青龍、玄武、朱雀(すざく)、白虎(びゃっこ))を描いた四本の旗を四神旗と言いますが、江戸の場合は旗の頭に剣が付いているので四神剣。天の四方を指し、祭りで天下泰平、福寿増長を祈願したのです。
 祭りは今の永田町・日枝(ひえ)神社の山王祭でしょう。旧暦の六月十五日に開かれ、町内が当番制で四神剣を保管したようです。
 祭りの後、大事な四神剣を質に入れて派手に打ち上げをしたんでしょう。百兵衛を隣の町内から来た「四神剣の掛け合い人」と早とちりした若い衆の慌てっぷりが目に浮かびませんか。もっともらしく百兵衛を腕利きの掛け合い人だと説明する兄貴分が「懐具合が悪いのをのみ込んで」にかけて、百兵衛に「クワイ」のきんとんを丸のみさせるのがまた面白い。ちなみにクワイは冬野菜。砂糖漬けにしたものでしょう。
 「百川」はペリー来航の際に横浜に出向き、将校らをもてなしたと伝えられる高級料亭です。田舎なまりに振り回される江戸っ子たちのドタバタぶり、百兵衛がこの後にする勘違いを寄席でお楽しみください。
<さんゆうてい・けんこう> 1970年福島県会津若松市生まれ。サラリーマンを経て98年28歳で三遊亭好楽に入門、前座名「好作」。2002年二つ目昇進、「好二郎」に。08年真打ち昇進で「兼好」。11、12年国立演芸場花形演芸会金賞。滑稽噺を得意とする。

◆公演案内

◇兼好独演会 人形町噺(はな)し問屋 23日19時、東京・日本橋社会教育会館。2500円。予約申し込みはファクス=03・3870・4677(兼好)。
◇桃月庵白酒 三遊亭兼好二人会 6月11日14時、18時、東京・三鷹市芸術文化センター星のホール。各3000円。同チケットセンター=(電)0422・47・5122。

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